「新たなスタート地点に立てた」~一力遼棋聖インタビュー、井山裕太名人との七番勝負を終えて【コラム:品田渓】


 3月18日、第46期棋聖戦挑戦手合七番勝負第7局、井山裕太大三冠の一角をついに一力遼九段が崩した。本シリーズは第4局が終わった時点で一力の3勝1敗。カド番に追い込んだが、井山に第5局、第6局を奪われ、最終局にもつれこんだ。昨年、井山に碁聖をフルセットの末に奪われ、挑戦した名人戦でもギリギリのところでかなわなかった。どちらもカド番に追い込んでからの逆転負け。昨年を彷彿とさせる展開だったが、激闘を制したのは一力だった。
 開幕前のインタビューで「失うものはない。ぶつかっていくだけ」と話していた一力。昨年のリベンジを果たした今何を語るのか、話を聞いた。


  • ―― まずはおめでとうございます。
  • ●  ありがとうございます。
  • ―― 今のお気持ちをお聞かせください。
  • ●  多くの方からお祝いのメッセージをいただいて、徐々に実感がわいてきました。
  • ―― 第7局で勝ちが見えた時、どんなお気持ちだったのでしょうか。
  • ●  そうですね。(AIの)数字ほどには(形勢が)離れているとは思っていませんでしたし、秒読みだったので、手のこと以外を考える余裕はありませんでした。
  • ―― 中継で拝見していました。秒読みで「9」を読まれてから打たれていたのでドキドキしました。
  • ●  いろんな方からそう言われました(笑)。
  • ―― 昨年は碁聖戦、名人戦を井山名人とのフルセットの末に敗れ、天元を失い、無冠になりました。開幕前のインタビューでは「失うものはない。ぶつかっていくだけ」とおっしゃっていましたが、振り返ってどんなことを思われますか?
  • ●  昨年は結果を求めすぎてしまい、そのために自分らしく打てなくなってしまいました。特に天元戦ではそれが前面に出てしまった。なので、今年は結果を気にし過ぎず、自分らしく打つことを心がけました。それが良かったのだと思います。
  • ―― 自分らしく打つ、とは具体的にどういうことですか。
  • ●  迷った場面で大胆な手を打てるかという部分でしょうか。人によると思いますが、自分の場合は勝ちたい気持ちが強過ぎるとかたい手が多くなり守りに入ってしまいます。第7局では良し悪しは別として思い切りのいい図を選んで、自分らしく戦えました。
  • ―― 開幕前のインタビューで井山名人との差を特に精神面で感じたとおっしゃっていました。今回の棋聖戦ではいかがでしたか。
  • ●  そうですね。昨年の経験を経て、自然体で打てたと思います。打ちたい手を打つ心の余裕を持って戦えました。
  • ―― カド番に追い込んでから第5、6局を落とされた時はどのような心境でしたか。
  • ●  開幕前、厳しい戦いになると思っていたので、自分の中の目標を「最終局まで行くこと」としていました。なので、連敗した時も「シリーズとしては盛り上がる」など、プラスに考えるように心がけて、焦ったりということはあまりありませんでした。
  • ―― 最終局は京都市の「仁和寺」に場所を移したこともプラスだったでしょうか。
  • ●  はい。世界遺産で打てるというのは特別な経験で、そこで打つということを一つの目標にしていたので、仕切り直しといいますか、トーナメントの決勝戦という気持ちで臨めました。
  • ―― 昨年の碁聖戦、名人戦とは違った心境でしたか。
  • ●  昨年は(シリーズの)流れの中で捉えてしまっていたところがあったかもしれません。
  • ―― 今シリーズでキーになった対局はどれでしょう。
  • ●  第1局です。初戦で難しい碁を勝つことができて気持ちが楽になりました。また、第4局と第7局も良し悪しは別にして、自分らしく、持てる力は100%出し切れたと思います。
  • ―― 井山名人から三大棋戦の一角を取ったということで、格別な思いはありますか。
  • ●  井山名人の、特に8時間の碁での精度、ヨミの深さ、広さは打っている中で感じてきました。その井山名人に二日制の碁で4勝することができたというのは自信になりました。
  • ―― 終局直後のインタビューで勝った碁は紙一重、負けた碁は大差。実力的にはまだ差を感じると話されていましたが。
  • ●  はい。積み上げてこられたものが違いますし、まだまだ追い付けたとはとても言えないと思います。
  • ―― 井山名人との距離感は、ご自身ではどのように捉えていらっしゃいますか。
  • ●  先ほども申し上げたように井山名人に内容の面で及んでいなかったと思います。とても肩を並べたとは言えません。そうですね...。遠かった一歩を踏み出して、新たなスタート地点に立てた、そんな感じでしょうか。
  • ―― ありがとうございました。
記・品田渓


棋聖獲得直後の記者会見


第1局、1月13、14日、東京都文京区「ホテル椿山荘東京」。一力「初戦で難しい碁に勝つことができ、気が楽になった」。


第4局、2月18、19日、山梨県甲府市「常磐ホテル」。好局で井山をカド番に追い込んだ。


第6局、3月10、11日、神奈川県箱根町「ホテル花月園」。第5局、第6局と連敗。カド番の鬼、井山が牙を剥いた。


第7局、3月17、18日、京都市「仁和寺」。一力が大三冠の一角を崩し、新棋聖が誕生した。