「失うものは何もない」~一力遼九段が井山裕太棋聖に挑む、棋聖戦開幕直前インタビュー【コラム:品田渓】


 日本最高位のタイトル戦、第46期棋聖戦七番勝負が1月13日、東京都文京区「ホテル椿山荘東京」で開幕する。タイトル保持者は不動の大三冠、井山裕太棋聖。その井山に一力遼九段が挑戦する。昨年、碁聖戦、名人戦で井山と戦い、両棋戦ともカド番に追い込みながら惜しくも敗れた一力。挑戦を前に何を思うのか、心境を聞いた。

  • ―― 昨年、井山棋聖との戦いを振り返っていかがだったでしょうか。
  • ●  昨年、井山さんとの成績は5勝8敗だったのですが、(タイトル獲得が絡むような)大きいところではすべて負けてしまい、(負けた碁は)内容的にもチャンスがありませんでした。まだまだ差があるなと感じさせられました。
  • ―― 感じた差というのは具体的にはどのようなものでしょうか
  • ●  読みの広さ、深さもそうですが...。一番は精神面でしょうか。カド番に追い詰めることができて、あと1勝となった時に勝ちたい気持ちが前に出過ぎてしまったと思います。井山さんは追い込まれた時に力を発揮できている。難しいですが、どんな対局でも平常心でいることが重要なのだと思いました。
  • ―― 碁聖戦、名人戦とどちらもフルセットの大熱戦でしたが、手ごたえを感じたところはありますか?
  • ●  (カド番に追い詰めた)碁聖戦第3局と名人戦第5局は自分としても納得のできる内容で勝てたので、それは収穫だったと思います。
  • ―― 昨年、井山棋聖と対峙してみてどんな印象を受けましたか?
  • ●  以前より対局中のモーション(体を動かしたりぼやいたり)が少なくなっていたような気がしますね。あと、布石の研究をすごくしているなと思いました。多くのパターンを持っていて、どれも使いこなしている。AIと自分の感性を上手く融合させていると感じました。
  • ―― 一力九段はどのようにAIを取り入れているのでしょうか。
  • ●  いろいろな布石を調べたり、AIと対局してみたり、他の棋士と一緒に研究してみたり、自分はまだ手探りですね。
  • ―― 昨年は激動だったと思います。年末年始はゆっくり過ごされましたか?
  • ●  はい。実家でゆっくり過ごしてリフレッシュすることができました。
  • ―― 今年はどのような年にしたいですか?
  • ●  まずは棋聖戦に集中したいと思います。昨年はタイトルを失ってしまったので、それを取り返すつもりで挑みたいです。
  • ―― 井山棋聖との七番勝負に向けて抱負をお願いします。
  • ●  タイトルもありませんし、失うものは何もありません。ただ向かっていくだけです。最高の舞台で戦える喜びを噛み締めながら、自分の碁をお見せできるように頑張ります。
記・品田渓


第46期名人戦挑戦手合七番勝負第5局。納得の碁で井山名人をカド番に追い込んだ。


第46期名人戦挑戦手合七番勝負第7局。井山名人が勝負強さを発揮。フルセットの激闘の末敗れた。


棋聖挑戦に向けて抱負を語る一力九段。