スミレの碁―林漢傑八段が語る「仲邑菫二段のここがすごい」「つるりん式観る碁のすすめ~こぼれ話」


 ここでは週刊碁連載中の「つるりん式観る碁のすすめ~四字熟語編」で書ききれなかったこぼれ話を紹介します。(つる=鶴山淳志八段、りん=林漢傑八段

 今回は満を持して仲邑菫二段が登場しました!史上最年少入段、史上最年少昇段、史上最年少タイトル挑戦、最年少100勝達成。竜のごとき勢いで駆け上がっていくその姿は多くの人をワクワクさせてくれます。




 さて、仲邑二段がとても強く、勢いがすごいことは周知の事実です。しかし、どんな碁を打っていて、具体的にどんなところが強いのかについては意外と知られていないのではないでしょうか。そこで今回の「こぼれ話」では、有識者を代表して我らが林漢傑八段にそのすごさ、強さを余すところなく語っていただきました!
(インタビュアー=編集K 林=林漢傑八段)

  • ―― 仲邑二段はどんなところが強いのでしょうか。
  • 林) 私は強さの源は2つあるとみています。
  • ―― それはなんですか?
  • 林) 驚異の吸収力と唯一無二の勝負勘です。
  • ―― 詳しくお願いします!
  • 林) まず、驚異の吸収力ですが、仲邑二段のもともとの棋風はご存知ですか?
  • ―― 「手厚い棋風」と聞いたことがあります。
  • 林) そう、手厚く打って攻める棋風。ですが、今は攻めるだけではなくてヨセ勝負も得意です。終盤力がグッと上がって、少しのリードをがっちり保つということもできるようになったのです。それがよく表れていたのは国際戦(議政府国際囲碁新鋭団体戦)で世界のトップ棋士、中国の周泓余六段に勝った碁です。あの碁は苦しいのを逆転し、一度逆転してからは少しのリードを守り切りました。そしてまた、ここにきてシノギ勝負で勝つことも増えた気がします。
  • ―― 芸域を広げているのですね。
  • 林) その通り。AIの打ち方をどんどん吸収して、どんな碁でも打てるオールラウンダーに進化してきている、そんな感じがします。
  • ―― もう一つの唯一無二の勝負勘、こちらはいかがでしょうか。
  • 林) 高尾紳路九段が「菫ちゃんには菫ちゃんにしかない勝負勘がある」とおっしゃっていましたが、確かに、どこで勝負に行けばいいのかが仲邑二段には見えているように感じることがあります。
  • ―― 形勢判断が正確ということでしょうか。
  • 林) それもあります。すごいのはまだ計算がつかない、序中盤でもそれができるところです。形勢が悪くても悪くなり切らないし、いい時は少し損をすることがあっても逆転まではさせない。一流の人が持っている特長をそのまま備えていると言えます。
  • ―― 以前、張栩九段が「菫ちゃんはつまらないミスをしない」とおっしゃっていたのを思い出しました。長い一局を通じてミスなく打てるというのはすごいことですね。
  • 林) その通りです。ミスなく打てるということはそれだけスタミナがあって、ずっと集中していられるということです。スタミナと集中力が突出しているというと井山裕太名人と一力遼棋聖の名前が最初に思い浮かびます。仲邑二段が頂点に立つお二人と同じ資質を持っているのは頼もしいですね。
  • ―― 仲邑二段は女流名人リーグで挑戦権を獲得しましたが、三番勝負では藤沢里菜女流名人に2連敗という結果でした。仲邑二段の現時点での強さはどのくらいなのでしょうか。
  • 林) 成長スピードが速いので正確には分かりませんが、女流に限って言えば藤沢女流名人と上野愛咲美女流棋聖の2人以外にはなかなか負けないのかな、という感じがします。この2人の実力はトップ30に入るくらい。これは七大棋戦本戦の常連、三大棋戦のリーグ入りはいつしてもおかしくない、若手棋戦なら優勝候補ということです。
  • ―― ・・・トップ棋士ですね。
  • 林) はい。マラソンなら先頭集団にいることは間違いないでしょう。仲邑二段はその2人にはまだなかなか勝てない。でも、これまでの実績を見る限り、相当近いところまで迫って来ていると思います。
  • ―― ・・・恐ろしい13歳ですね。
  • 林) 現時点の強さも驚きですが、まだまだ進化中というのが恐ろしいです。
  • ―― 驚異の吸収力と唯一無二の勝負勘、そしてそれを支える無尽蔵のスタミナと高い集中力。仲邑二段のすごさ、強さがよく分かりました。ありがとうございました。
記・編集K