中部が育てた宝物―加藤千笑二段「つるりん式観る碁のすすめ~こぼれ話」


中部が育てた宝物―加藤千笑二段




 前回に引き続き、下島陽平八段をゲストに交えての中部編です。今回のお題は加藤千笑二段。満場一致ですぐに「晴雲秋月(純真で汚れのない心のたとえ)」が選ばれました。

 加藤二段は岐阜県出身の20歳です。先天性の難病「骨形成不全症」のため車いすで生活しています。師匠は羽根直樹九段。下島八段は「千笑ちゃんは一番、羽根先生の教えを色濃く継いでいる。まず、棋風が自然体で羽根先生を彷彿とさせるところがあるし、対局姿勢も凛としていてかっこいい」と言います。
 加藤二段の実力は女流トップクラス。今年、女流棋戦で負けなしの藤沢里菜女流本因坊にはじめて土を付けたのは加藤二段でした(女流棋聖戦本戦2回戦)。

 私、編集Kは小林覚九段が女流碁界を次のように分析しているのを聞いたことがあります。「女流タイトルを争っているグループを3つに分けると、第1グループに2強の藤沢女流本因坊と上野愛咲美女流棋聖がいて、第2グループに謝依旻七段鈴木歩七段ら長年第一線で活躍する実力者がいて、第3グループに牛栄子三段、加藤千笑二段、仲邑菫二段ら有望な若手がいる」。加藤二段は今年の立葵杯でベスト4に入り、女流棋聖戦で挑戦者決定戦に進出しています。実際にタイトル戦まであと少しです。



第25期ドコモ杯女流棋聖戦準決勝。佃亜紀子六段に勝って挑戦者決定戦に進んだ加藤千笑二段

 今でこそ加藤二段の活躍は当たり前となりましたが、やはり、難病を抱えて棋士になるには多くの困難がありました。お母様の裕子さんは「ここまで来るのに本当にたくさんの方にお世話になった」とおっしゃいます。「小学生の頃、段級位認定大会に参加していた時は、職員の方が千笑の机だけ車いす用に低いのを用意してくださいましたし、院生に入った時は、中部総本部に今までなかった多目的トイレを千笑のために設置していただきました。(羽根)直樹先生は千笑に不自由がないかいろいろ気を付けてくださって、(羽根)泰正(九段)先生は院生になってから毎週必ずネットで打ってくださいました」。

 下島八段は言っていました。「千笑ちゃんは本当に素敵な人。心から応援している」。きっと、今まで加藤二段を支えた方たちは、みんな加藤二段を心から応援していて、何かせずにはいられなかったのでしょう。加藤二段のひたむきさが周囲を動かし、周囲の応援が加藤二段を支える。そういう循環の中で力を付け、今、タイトルをうかがうところまで来た。加藤千笑二段は中部が育てた宝物のような存在なのです。

記・編集K