望湖楼・横カメ転倒事件【とある編集室の井戸端会議】



新人編集サイトウ
急な異動で周囲の囲碁会話が呪文に聞こえる日々を過ごす、週刊碁歴3ヵ月のアラフォー。棋力は10級。アニメとワインで現実逃避中。出張終わり、宿に戻るとテレビから「ごちうさ」が流れ「どんな温泉よりも癒された。心がピョンピョンするんじゃ~」と語る男。

先輩編集ホリー
ヒカルになるんだ!と意気込んだものの高段止まり。いつの間にか週刊碁歴10年になっていたアラサー。某ネコ型ロボットのグッズ集めが癒し。出張中、FGOのスタミナが駄々漏れし「誰か、溢れた分の石代を補填してください」と語る男。
  • サイトウ「トゥルル~ル~♪ル~ル~ルル~♪ルルルル♪ルル~ルル~♪」
  • ホリー 「......」
  • サイトウ「真実はいつも一つ!」
  • ホリー 「......」
  • サイトウ「全国1億2千万人の囲碁ファンの皆様、お待たせしました。不肖サイトウ、初出張より帰還いたしました!」
  • ホリー 「お疲れ様でした」
  • サイトウ「僕がいなくて、寂しかったんじゃないですか?」
  • ホリー 「いえ、別に」
  • サイトウ「またまた~。僕の武勇伝、聞きたいでしょ?」
  • ホリー 「じゃあ手短に」
  • サイトウ「東京から西へ500km、大阪・関西棋院。ここに、ある思いを胸にカメラを構える、ひとりの編集者がいる。そう、その者こそ後に伝説の編集者として名を馳せる男・サイーー」
  • ホリー 「今回は大阪で行われた新人王戦第3局、それから鳥取の女流本因坊戦第2局へハシゴしたんですよね」
  • サイトウ「......そうなんですけど。相変わらず情緒のないパイセンですなぁ」
  • ホリー 「久しぶりにこのハイテンションを前にすると、疲れが。本題にいきましょう」



  • ホリー 「新人王戦は関さんが優勝しましたね」
  • サイトウ「僕は週刊碁に来る前、長年院生の指導担当をしてましてね。関くんのことは、彼が院生になった頃からずっと知ってるんですよ。いや~彼はヤンチャでね~。色々苦労したものです。関航太郎はワシが育てた、と言っても過言ではないかと」
  • ホリー 「(ほんとか?)では、局後に熱い抱擁でも交わしたんですか?」
  • サイトウ「いや~、照れちゃったのかなー。言葉を交わすことも出来なくて。なので、ここで言わせてもらいましょう。立派になったな、関よ!」
  • ホリー 「(嫌われてるのでは?)」



  • サイトウ「はい!ということでね!ここからが本番!先ほどの関くんの写真はプロの方が撮ったものですが、女流本因坊戦はすべて私の撮影!この写真よくないですか?」
  • ホリー 「......正直、いい感じかと」
  • サイトウ「でしょ!対局場の望湖楼をバックに、パシャリ!明るさよし!笑顔よし!でしょでしょ!」
  • ホリー 「前回の練習写真とは雲泥の差で、驚きました。コソ練しました?」
  • サイトウ「常人と一緒にされては困りますね。実戦で覚醒したんですよ」



  • サイトウ「鳥取といえば名探偵コナン! 青山剛昌ふるさと館の館長さんもいらっしゃいました。スリーショット!」
  • ホリー 「これもいい写真ですね。どうしちゃったんですか、サイトウさん」
  • サイトウ「センスですよ、センス」
  • ホリー 「せっかくなので紹介します。事前に両対局者に聞いたコナンのベストエピソード」
  • サイトウ「いつの間に!?」
  • ホリー 「まずはコナン好きとして有名な藤沢さん。『修学旅行編』で新一と蘭がついに付き合うことになるエピソードがイチ推しとのこと」
  • サイトウ「あー、いいですよね。おじさんもキュンキュンしちゃった。里菜さんもその口ですな?」
  • ホリー 「『ようやくくっついた!おめでとう!おめでとう!』って拍手してたそうです」
  • サイトウ「親戚のお姉さん感がすごい」
  • ホリー 「『アニメを見始めた頃は同年代だったのに、いつの間にか新一たちの年齢を追い抜いちゃって...』と哀愁を漂わせていました。続いて上野さん。初期のエピソード『図書館殺人事件』を挙げました」
  • サイトウ「トラウマ回として有名なやつでしたっけ?」
  • ホリー 「死体と共にエレベータから登場したり、目が赤く光ったり。犯人・津川館長のインパクトがすごい話です。上野さんは『怖いよー、トラウマすぎました』と語っています」
  • サイトウ「好きな話が真逆ですね。人柄が出てる感じで面白い」



  • ホリー 「対局開始ですか」
  • サイトウ「実はここで、ちょっとした事件がありました。何せ望湖楼はコナンの舞台になった旅館ですからね。事件の一つや二つ起きても、何ら不思議ではない」
  • ホリー 「ほほう。それはちょっと気になりますね」
  • サイトウ「時は、対局が始まる少し前、5分ぐらい前ですかね、そのあたりにさかのぼります。天才カメラマン・サイトウは、両対局者が綺麗にファインダーに収まる位置に陣取りました。あらゆるシミュレーションを繰り返し、いかなる不測の事態にも対応できる――その瞬間のサイトウは気合の塊。一分の隙もなかった」
  • ホリー 「ふむ」
  • サイトウ「後は対局開始を待つばかり。そのはずが......突然YouTube用のカメラが、派手に倒れたのです」
  • ホリー 「ゴクリ」
  • サイトウ「明らかに人為的な犯行です。周囲を見渡すと、カメラの近くに立っている者は誰もいない。どんなトリックを用いて、遠く離れたカメラを倒したのか。この名探偵サイトウをもってしてもわかりませんでした」
  • ホリー 「......なるほど」
  • サイトウ「現場スタッフ一同困惑していると、YouTube担当の...そうですね、Mr.Tとでも呼称しますか。Mr.Tが颯爽と現れ、僕の脇腹に渾身のリバーブローを炸裂させました」
  • ホリー 「つまり?」
  • サイトウ「犯人は僕だったのです。気合が入りすぎ、僕のお尻がカメラを倒したことに気付かなかった。あまりに......あまりに哀しい事件でした」
  • ホリー 「真面目に聞いた時間、返してもらってもいいですか?」



  • サイトウ「その後、Mr.Tとは険悪な空気が流れ続けました。何度もわざとじゃない!と力説したというのに。頭堅いですよね」
  • ホリー 「そうですね」
  • サイトウ「しかし和解のきっかけとなったのが、昼食。対局者と同じものを幸運にもいただけることになりまして、Mr.Tと仲良く分け合って食べました。『対局者は毎回美味しいもの食べてるんだなぁ。ちくしょ~』という思いが一致。横カメ転倒事件は、一気に解決に向かったのでした」
  • ホリー 「どうでもいいんですが、もっと寄って撮ったほうがいいですよ。美味しそうに見えません」
  • サイトウ「......(欠点を指摘するとき、本当に嬉しそうだな。この人)」



  • ホリー 「これはYouTube撮影?」
  • サイトウ「はい。対局見学に訪れた3人、左から地元・湯梨浜学園囲碁部の秋藤くん、山涌さんと、鳥取出身の強豪・神戸さん。なんとYouTubeにも出演してくれました」
  • ホリー 「好評だったみたいですね」
  • サイトウ「ええ、ええ! 神戸さんの司会が最高で! 好評も好評!大好評!」
  • ホリー 「はは~ん」
  • サイトウ「何すか?」
  • ホリー 「いえ、サイトウさんが終始デレデレデレデレ鼻の下を伸ばしていたっていうタレコミがありましてね。そういうことでしたか」
  • サイトウ「誰だ!ネタ元は!」



  • ホリー 「で、終局。勝者の上野さん。これまでは及第点でしたが...。残念、ついに尻尾を出しましたね」
  • サイトウ「えっ、何のことですか?」
  • ホリー 「柱が上野さんの頭に突き刺さるような感じになってるでしょう? これ、アウト寄りのアウトです」
  • サイトウ「そんな......。でも何枚かは、セーフ寄りのセーフもあったんじゃ......?」
  • ホリー 「まぁそうですね。晒しあg...いえ、今後の戒めとして紹介させていただきました」
  • サイトウ「この人、相当ブラックストマックですよ。皆さん、気を付けて」
  • ホリー 「濡れ衣はよくない。しかし写真の出来が思ったよりちゃんとしていて、コラム的には正直つまらないというか、いじりがいがなかったですね」
  • サイトウ「僕も自分の才能が怖い。それでは最後に、現地スタッフを虜にしたとっておきのネタを披露しましょう!」



  • ホリー 「これは?」
  • サイトウ「小林千寿六段が対局者に差し入れをしてくださいまして。チーズケーキですよ、チーズケーキ」
  • ホリー 「......それで?」
  • サイトウ「千寿のチーズケーキ!」
  • ホリー 「......」
  • サイトウ「この渾身のダジャレで、僕は一躍検討室の主役に躍り出たのです!」
  • ホリー 「......。現地スタッフの皆様。見た目は大人、頭脳はオヤジ。ウチの迷編集サイトウが、迷惑をかけたようで申し訳ありません」

  • ※ サイトウが写真撮影を担当した女流本因坊戦第2局は、10月26日(月)発売の週刊碁に掲載予定です。
    王座戦第1局、天元戦第2局も掲載!よろしくお願いします。