神速の鷹VS幽寂の虎~棋戦アナリスト林漢傑八段が読む七番勝負「第47期棋聖戦直前スペシャル第2部」


(つる=鶴山淳志八段、りん=林漢傑八段

 一力遼棋聖芝野虎丸名人、令和三羽烏の2人が初めてぶつかる七大タイトルの頂上決戦。第47期棋聖戦挑戦手合七番勝負は待ちに待った好カードとなりました。棋聖と名人、昨年絶対王者の井山裕太三冠からそれぞれタイトルを奪取した両雄の戦いはどんな展開になるのか。「第47期棋聖戦直前スペシャル第1部」ではつること鶴山淳志八段に碁の内容以外の見どころをうかがいました。第2部ではりんこと林漢傑八段に両者の棋風や本シリーズの見どころなど、碁の内容に関することをたっぷりと分析していただきます。


編集K)棋戦アナリストのりん先生、よろしくお願いいたします。

りん)すみません、あの、棋戦アナリストというのは・・・?

編集K)りん先生は七大タイトル戦のリーグ戦や挑戦手合が始まる前になると、よく新聞各社様に展望を聞かれていますね?

りん)まあ、はい・・・。

編集K)とある筋によりますと、りん先生の分析は明快で大変評判なのだそうです。なので、今後は棋戦アナリストと名乗るのはどうかなと思いまして。

りん)なるほど・・・棋戦アナリストの林漢傑、悪くありませんね(笑)。大変光栄です。ご期待に応えられるように頑張ります。

編集K)では、棋戦アナリストのりん先生、まずは両対局者の棋風を教えてください。

りん)はい。一力棋聖の棋風を一言で表すならパーフェクトです。普通はどんなに高い次元でも得意不得意は表裏一体ですが、一力さんの場合はなぜか全部得意。攻めに回ってもシノギに回っても囲い合いでも何でも強い。それが可能なのは恐ろしく手が読めるから、それもとんでもなく早く読めるからだと私は思います。

編集K)恐ろしく手が読めるそれも早く読めるパーフェクトな棋風・・・。すみません、すごく強いことは伝わってきましたが、具体的な棋風のイメージが湧きません。

りん)そうですよね。ただ、○○の碁と表現できないところが、パーフェクトのパーフェクトたる所以なんです。まあ、強いていうなら大技を仕掛けるよりは、的確にポイントを稼ぐ棋風なのかな・・・。ただ、そのポイントの稼ぎ方が鮮やか過ぎてそれだけで相手を突き放してしまうこともあるんですけど・・・。ボクシングでいうなら一力さんはジャブがすごい、スゴすぎてジャブでKO勝ちできてしまうくらいに。そんな感じです。           

編集K)一力棋聖にキャッチフレーズを付けるとしたら何と付けますか?

りん)そうですね。とにかく読みが早くて正確なので、「神速の鷹」はどうでしょう。よく「飛翔」と揮毫してらっしゃいますし、盤を見る視線の鋭さは鷹そのものです。

編集K)「神速の鷹」一力棋聖にぴったりですね!いただきました。では次に芝野名人の棋風について教えてください。

りん)芝野さんは常に進化している棋士だと思います。特に名人戦では新しい芝野さんを見た気がしました。

編集K)と言いますと?

りん)なんというか、今の方がゆったりとした棋風なんですよね。以前だったら仕掛けていそうな場面で焦らない。それでいて遅れない。堂々とした模様の碁です。

編集K)模様の碁というと、相手が入ってきたところを攻めて取ってしまうような碁ということでしょうか。

りん)いや、そうとも限りません。もちろん力は強いですが、相手の出方によっては寄り付くだけでも十分に元が取れる。隅や辺と違って中央は決め方が難しいのですが、芝野さんにはそれが見えているようです。もともとは実利の碁でしたが、どんどん変化していって、また新たに強力な武器を手に入れた。そんな印象です。

編集K)芝野名人のキャッチフレーズもお願いします。

りん)一力さんが鷹なら、やっぱり芝野さんは虎ですよね。それもただの虎じゃない。堂々として変化を恐れない、それでいて佇まいは限りなく静か。「幽寂の虎」とでも言いましょうか。

編集K)神速の鷹vs幽寂の虎、七番勝負が始まるのがますます楽しみになりました。では、最後に本シリーズの見どころをお願いします。

りん)細かい点ですが、私がひとつ注目しているのは芝野さんが二連星を打つかどうかです。名人戦では二連星を打っていましたが、本シリーズでもそれを継続するのか。一力さんは対戦相手に合わせて打ち方を準備するタイプなので、芝野さんの二連星にどんな手を用意してくるのかが楽しみですし、もし違うならまた新たな展開になってそれも楽しみです。一力さんは昨年棋聖を奪取した後、本因坊戦で井山さんに4連敗を喫してとても落ち込んでいたのですが、少しずつ立て直し、この棋聖戦に照準を合わせて復調してきました。芝野さんも調子が良さそうなので、本シリーズは両者とも万全の状態で最高の対局を見せてくれるのではないかと思います。

編集K)同年代でともに碁界を牽引している2人の戦いは今期棋聖戦を皮切りに今後も続いていきそうです。これからの碁界を占う意味でも重要なシリーズになりますね。開幕局は1月12日(木)、13日(金)にホテル椿山荘東京で行われます。りん先生は本局の新聞解説を務めるご予定と聞きました。

りん)間近で歴史的なシリーズの開幕局を観戦できるのはとてもワクワクしています。棋戦アナリストの名に恥じないよう、しっかりと解説しますので、当日は中継で観る碁を、後日読売新聞の観戦記を楽しんでいただければ幸いです。               

記・編集K