鈴木伸二七段に聞く「妖怪」との付き合い方「つるりん式観る碁のすすめ~こぼれ話」


 ここでは週刊碁連載中の「つるりん式観る碁のすすめ~四字熟語編」で書ききれなかったこぼれ話を紹介します。(つる=鶴山淳志八段、りん=林漢傑八段

 今回は妖怪見学坊主こと大淵浩太郎五段を取り上げました。タイトル戦があると見学という名目で遠方であろうと自腹で会場入りし、ユーチューブ解説などを買って出る大淵五段。真面目な人柄ながら独特な風貌に不思議な行動、怪しげな雰囲気が相まって世の中では棋士としてよりも妖怪として名前が通るようになりました。
 そこで本コラムでは、この見学する大淵五段に「妖怪見学坊主」という名を授け、大淵五段の妖怪としての知名度を飛躍的に高めた鈴木伸二七段を直撃することに。しかし鈴木七段、なかなか口を開きませんでした。そこを頼み込んでようやく語りだしたのは・・・。



妖怪見学坊主 提供:妖怪見学坊主

  • ― 今回は妖怪見学坊主について伺いたいのですが。
  • ○ 僕が広めておいて何ですけど、これ以上取り扱うと彼が調子に乗ってしまうので、あんまり話したくないんですよね。
  • ― そこを何とか(笑)。
  • ○ ・・・いやですね。やっぱり僕が何か言うと彼が喜んで調子に乗ってしまうので、残念ですがお断りします。
  • ― そこを、そこを何とか!!
  • ○ まあ、僕は彼を誉めることは一切できないですけど、それでもいいなら・・・。
  • ― わかりました。何でもいいのでお願いします。ではまず、鈴木七段と大淵五段のご関係を教えてください。
  • ○ 院生からの付き合いです。少し後輩にあたります。昔から彼が調子に乗って失礼を働いている現場をたくさん目撃しているので、今の状況は非常に心配です。
  • ― ・・・。いろいろあるんですね。その前に、妖怪見学坊主と名付けた経緯を教えてください。
  • ○ そのままを言っただけですね。タイトル戦の見学をしているし、坊主頭で実際にお坊さんの資格を持っているし、まあ、妖怪だし。
  • ― 妖怪なのは確定なんですね(笑)。鈴木七段はどんなところに妖怪らしさを感じていますか?
  • ○ 彼は取っている行動が普通ではなくて面白いといえば面白いんですよね。どんなに遠くでも自腹を切って見学しに行くとかもそうですけど、えっ、そんなことをするの?みたいなところがあります。昔、韓国の棋士たちとスポーツをする機会があったのですが、みんながスポーツする格好でいるところに一人ワイシャツで来て、コケたり、ボールに突っ込んだり、変なことばかりするので、韓国の棋士たちはドッカンドッカンウケていました。よく言えば言葉のいらないコメディアンです。しゃべると全然面白くないですけど(笑)。でもまあ、そういう謎な行動、予想のできなさ、みたいなところは妖怪らしいんじゃないでしょうか。
  • ― 先ほどからお話を伺っていて思うのですが、大淵五段に対してかなり厳しくないですか?
  • ○ いえ、全く厳しくありません。彼は本当にすぐ調子に乗って、悪気なく言うべきことじゃないことを言ったり、すべきことじゃないことをしたりするんです。だから、本当に関係各社様にご迷惑をおかけしていないかが心配です。ああやって、見学しにきて、中継で解説するのはいいですけど、みなさん仕事でいらしているわけなので、彼が出過ぎるのはよくないんです。でも、彼は周りを見て控えたりできないので、本当に周りの大人が注意してあげないといけないんです。あと、いくら何でも見学しすぎですよね。家庭もあるんだから、もっとちゃんと仕事をしたり、家のことをしたりしないといけないだろう、と思います。
  • ― 本気の説教ですね・・・。鈴木七段がいかに大淵五段を思っているかが伝わってきました。
  • ○ 違いますよ。僕はあくまでも彼に迷惑をかけられる人が出ることを心配しているんです。彼のことは微塵も思っていません。
  • ― またまた~(笑)。では、妖怪見学坊主に遭遇したらどのようにするのが正解なのかを教えてください。
  • ○ 妖怪なので、そっとしておくのが一番です。見かけたら「ああ、いるな」と思って静かに遠くから眺めましょう。妖怪見学坊主は下手に触れると悪さをする可能性が高いので、決して誉めたり、持ち上げたりしないのが鉄則です。
  • ― 触らぬ妖怪に祟りなしということですね。
  • ○ その通りです。神様仏様は挨拶をしないと罰が当たるかもしれませんが、彼は妖怪なので挨拶をしなくても罰が当たることはありません。むしろ、下手に絡んで喜ばせてしまうと良くない調子の乗り方をしてしまうかもしれないので、そこは皆さんが各々気を付けて接してあげて欲しいところです。
  • ― なんだかんだ優しいですよね。
  • ○ 本当にやめてください。僕は後悔しているんです。僕が軽い気持ちでいじってしまったばっかりに世の中に妖怪見学坊主を生んでしまったことに。あ、最後にいいですか。ちょっと彼に言いたいことがあるんですけど。
  • ― どうぞ、お願いします。
  • ○ あのな浩太郎、妖怪見学坊主っていうのは周りに言ってもらうからオイシイんであって、自分で妖怪妖怪って言うのはイタイからな。もっと自重しろよ。
  • ― ・・・やっぱり優しいですね。
  • ○ だから、本当にやめてください。
記・編集K