奥が深い「剛腕」の世界「つるりん式観る碁のすすめ~こぼれ話」


 ここでは週刊碁連載中の「つるりん式観る碁のすすめ~四字熟語編」で書ききれなかったこぼれ話を紹介します。(つる=鶴山淳志八段、りん=林漢傑八段

 今回は「混沌流」酒井佑規三段が登場しました。その迫力と読みの深さは誰もが認めるところ。新人王戦決勝三番勝負でどのような戦闘ぶりを見せてくれるのか楽しみでなりません。

 さて、酒井三段のような好戦的な棋風は「剛腕」と表現されることが多いです。しかし、「剛腕」の一言で済ませてしまうのは餃子も北京ダックも麻婆豆腐もフカヒレもみんな「中華」と言っているようなもの。なんて勿体無い。もっと一皿一皿の個性を堪能するべきです!!
 ということで、本コラムでは今まで「つるりん式観る碁のすすめ〜四字熟語編」に登場した屈指の剛腕プレーヤー4人を取り上げて、何がどう違うのか徹底解説することにいたします!!



つるりん式「剛腕」分析はじめます!!

山下敬吾九段
 キングオブ剛腕の山下九段はつる&りんから「獅子奮迅」の四字熟語を当てられました。獅子はライオンです。つまり人の攻撃と違って予測がつきません。そして、何しろ百獣の王なので、パンチの一つ一つが重く、噛みつかれたら終わりです。つる&りんによれば「山下九段のパンチはどこからでも飛んでくるのが特徴」だそうです。威力抜群な上に敏捷、獅子が暴れ回るがごとき破壊力。これが山下九段の「剛腕」です。

淡路修三九段
 「ロッキー」の異名を持つ淡路九段はその名の通り、リングで殴り合うボクサーのイメージです。山下九段はパンチの角度が多種多様で予測がつかないのが一つの特徴でしたが、淡路九段のパンチは「ある程度予想することが可能」なのだとか。ただし、その威力たるやトラックがぶつかってくるかのような衝撃なので、「完璧に避けることはまず不可能。せめて急所を外して致命傷を負わないようにするのが精一杯」とつる&りんは言います。

上野愛咲美女流立葵杯
 「ハンマー」の異名通り、武器として鈍器を持っているのが特徴です。淡路九段のように殴り合っているわけではないので、戦いの際はやや間合いをあけています。しかしこの「少し間合いがある」というのがクセモノ。少し離れているし大丈夫かな、と思っていると激烈な一撃が頭上から降ってきます。「みんなが警戒しているのにあんなに石を取れるなんて、いったいどんなハンマーを持っているんだ!?」とはつる&りんの心の叫びです。

【 酒井佑規三段 】
 ここ数年で台頭してきた剛腕界のニュースター。「混沌流」と呼ばれるように、酒井三段の戦いぶりはパッと見どちらが攻めているのかよくわかりません。つる&りんが「訳の分からない難しい読み合いに持ち込んで、抜け出した時にはなぜか酒井三段が勝っている」という不思議なプレースタイルなのです。
 人は自分を安全な場所に置いて戦いたいもの。しかし酒井三段には一切の保身がありません。ゆえに、相手を絡め取って一緒に読みのブラックホールに落ちていきます。そして、酒井三段にはブラックホールの中でも生き残る胆力があるので、結果、酒井三段だけが生き残る。聞くからに恐ろしい戦法で、つる&りんが「酒井くんの碁だけは絶対に真似ができない」というのも納得です。

 いかがだったでしょうか。同じ「剛腕」といえども千差万別。観る碁の際にはぜひこの点にも注目してみてください!!

記・編集K