張栩九段、それは詰碁之神「つるりん式観る碁のすすめ~こぼれ話」


張栩九段、それは詰碁之神




 ここでは週刊碁連載中の「つるりん式観る碁のすすめ~四字熟語編」で書ききれなかったこぼれ話を紹介します。

 今回は「電光石火」で選ばれた張栩九段のもう一つの顔、詰碁作家としての側面を掘り下げたいと思います。

 張九段は読みが早くて正確、そして色々な手筋を知っています。そうなると、詰碁はぜったいに得意だし、解くのが得意なら詰碁作りも得意なはず。張九段が詰碁作家として優れているのは当然、そう思う人も多いと思います。

 それはその通りです。でも、張九段の詰碁は、単に素晴らしい棋士だから詰碁作りが得意、を通り越しているのです。シンプルな中に無限の可能性を感じさせ、複雑な内容にも関わらず解答はシンプル。かのアインシュタインが生み出した特殊相対性理論の式 e=mc2 はそのシンプルさから「世界で一番美しい方程式」と呼ばれていますが、張九段の作る詰碁はそれに通ずるものがあります。

 つる「バラエティに富んでいて、新しい視点をいつも提供してくれる」。りん「もはや芸術」。張九段の詰碁が碁の専門家である棋士たちから非常に高い評価を受けているのは、やはりそこに「美」があるからなのでしょう。張九段は言っておられました。「詰碁作りへのこだわりは世界で一番強いと思っている。解いた時の爽快感、シンプルさが大事。解き手を困らせるようにわざと難しくしたような問題を私は作らない」



詰碁之神(張栩九段)による天地創造(詰碁作り)の時間。【撮影:小林泉美七段】

 張九段の詰碁はプロをうならせるような工夫を凝らしたものです。しかし、張九段自身が言っているように、わざと難解にしたものではありません。むしろ発想の転換でスッキリ解けるような、アマチュアでも楽しめる作品が多いのが特徴です。

 パズルゲームとして有名な「よんろのご」は娘の張心澄初段が4歳の時に碁を始めたばかりの子どもでも楽しめるようにと考案したものですし、今年3月に発売された『張栩の捨て石詰碁』(上巻下巻、日本棋院)も中級レベルから収録されています。解ければ爽快、たとえ解けなくても解答を見れば「そうだったのか!」と新しい発見をもたらしてくれます。

 もう一つ、張九段の詰碁で重要なファクターになっているのは「遊び心」です。妻の小林泉美七段のリクエストで「鬼滅の刃」にちなんだ詰碁を作ったり、娘に「お父さんのギャグはスベッている」と言われたことで奮起(?)してスベリが決め手になる詰碁を極めたり...。ちりばめられた天才ならではのユーモアが、アマチュアにとってはとっつきにくい詰碁の世界に親しみやすさを与えています。(ちなみに小林七段のツイッターをフォローすると張九段のユーモア部分がよく分かります)

 「つるりん式観る碁のすすめ」では既存の四字熟語を当てはめていますが、もし創作四字熟語部門ができたら、張九段はきっとこう命名されるでしょう、詰碁之神と。

記・編集K

  • * 日本棋院のオンライン講座では『張栩と楽しむ詰碁の時間』(講師:張栩九段、聞き手:小林泉美七段)が配信されました。第二弾を期待したいと思います。