碁をキッカケに世界を学ぼう!~フィトラ・R・S初段に聞くインドネシア文化「つるりん式観る碁のすすめ~こぼれ話」


 ここでは週刊碁連載中の「つるりん式観る碁のすすめ~四字熟語編」で書ききれなかったこぼれ話を紹介します。(つる=鶴山淳志八段、りん=林漢傑八段

 今回はご両親がインドネシア人でインドネシア国籍を持つ優しく穏やかな髭が似合う青年棋士、フィトラ・R・S初段をご紹介しました。フィトラ初段は日本生まれ日本育ちですが、ご両親が生粋のインドネシア人でイスラム教の価値観を大切にしているため、文化の違いを感じることが多かったと言います。そこで本コラムの企画は「碁をキッカケに世界を学ぼう!」です。フィトラ初段に講師となっていただき、インドネシア文化について学んでいきたいと思います。




(生徒=編集K)
  • - 今回はインドネシア文化について教えてください。フィトラ先生、よろしくお願いします。
  • ○ 僕自身はインドネシアに住んでいたことがないので、インドネシア全体のことは分からないですけど、僕自身のことについてならなんでも聞いてください。
  • - ありがとうございます。まず、最初の質問ですが、フィトラさんのフルネームはフィトラ・ラフィフ・シドキですが、フィトラが苗字でラフィフがミドルネームでシドキがお名前になるのでしょうか。
  • ○ ああ、いい質問ですね。実はフィトラはお父さんの名前で、ラフィフ・シドキは両方僕の名前です。インドネシアには苗字という概念がない代わりに、子どもは父親の名前を一つ受け継ぐんです。そして、名前は好きなだけ付けていいので、自分の名前を2つ以上持っている人は珍しくありません。
  • - なんと!苗字じゃなかったんですね!!ということは例えばお父さんが太郎さんだったとして、フィトラさんの名前は太郎・一郎・剛みたいな感じですか?
  • ○ う~ん。そうなのかなぁ。日本語にすると急に変な感じですね(笑)。
  • - そして、もしフィトラさんに子どもができたら今度はラフィフ・○○・△△になるということですか?
  • ○ そうなりますね。
  • - お名前一つをとっても文化の違いがありますね。あ、あと、フィトラさんはイスラム教徒でらっしゃるので、対局中に礼拝をされていると週刊碁の記事で読んだことがありますが、そうなのですか?
  • ○ はい。今は対局後に医務室で礼拝させてもらっています。僕の家族は日本に住むインドネシア人にしては厳格なムスリムなので、豚肉やお酒はNGだし、礼拝やラマダンなど、イスラム教の伝統行事は子どもの頃から行ってきました。もちろん同じムスリムでもそこまで厳格じゃない方もたくさんいます。
  • - インドネシアはイスラム教徒の方がほとんどなんですよね。
  • ○ はい。国民の9割近くがムスリムです。
  • - ラマダンは断食ですよね。つらくないですか?
  • ○ 太陽が昇っている間は食べてはいけないのですが、日が沈んだら食べてもいいんです。だから、ラマダンの期間は日が沈んだら毎日パーティーで結構楽しいんですよ。
  • - そうなんですか!本当に何も食べてはいけないのかと思っていました。昼間我慢して食べる夕食は美味しそうですね。
  • ○ はい。美味しいですし、みんなで集まって食べるのでとても楽しいです。でも、学生の頃のラマダンはキツかったですね。体育の授業の時は特に。これは日本に住むイスラム系の子あるあるだと思うんですけど。
  • - たしかに。中学生の時とか、何もしてなくても常におなかが空いていたような気がします。そんな中で昼食を抜いて体育とか・・・。キツイですね。
  • ○ そうなんですよ。でも、ラマダンが持つ意味の一つは貧しい人の気持ちになろうということなんです。だから、お腹が空くのも大事なことなのかもしれないです。
  • - 深いですね。ところで、フィトラさんはインドネシア語をお話しになるんですか?
  • ○ 両親が二人で話す時はインドネシア語なので、英語よりは分かります。でも、僕はほとんど使わないので話せるかというと・・・。
  • - インドネシア語で「こんにちは」は何というんですか?
  • ○ 「スラマツ シアン」です。
  • - スラマツ シアン・・・覚えました。ご両親のご実家に里帰りとかされることはありますか?
  • ○ はい。両親の出身はバンドンという町です。首都ジャカルタから車で3時間くらいのところにあって、親戚が住んでいます。
  • - ジャカルタから車で3時間・・・。それは近いんですか?
  • ○ かなり近いですね。まず、インドネシアは1万個以上の島が集まってできている国なので、同じジャワ島という時点でとても近いです(笑)。
  • - 1万個の島!!!すさまじい多さですね。もう同じ島なだけで奇跡!
  • ○ まあ、さすがに大きな島に人口のほとんどが集中しているのでそんなに珍しいことではないですけど(笑)。
  • - そっか。そうですよね(笑)。最後にフィトラさんが碁を覚えたのは日本ですが、インドネシアの囲碁事情を教えてください。
  • ○ あんまり盛んではないです。タイなどに比べるとだいぶ少ない。でも、コロナ禍になる前、インドネシアに指導へ行きました。これから増えていったらいいなと思っています。
  • - それは素敵ですね。フィトラさんのおかげでインドネシアがとても身近に感じました。本日はありがとうございました。
記・編集K