「ベストを尽くせばチャンスはある」~向井千瑛六段の底力「つるりん式観る碁のすすめ~こぼれ話」


 ここでは週刊碁連載中の「つるりん式観る碁のすすめ~四字熟語編」で書ききれなかったこぼれ話を紹介します。(つる=鶴山淳志八段、りん=林漢傑八段

 今回は不撓不屈のパンチャー、向井千瑛六段をご紹介しました。先日行われた女流立葵杯では仲邑菫女流棋聖との熱い勝負を制し決勝進出。決勝戦は藤沢里菜女流本因坊に敗れましたが存在感を示しました。
 向井六段といえば謝依旻七段から女流本因坊位を奪取したことで有名です。藤沢女流本因坊が台頭する以前、謝七段は絶対的な存在でした。女流本因坊6連覇、女流名人9連覇、女流棋聖5連覇、2016年には当時あった5つの女流棋戦を独占するグランドスラムを達成、といえばその凄さが伝わるでしょうか。
 向井六段は謝七段の入段同期。同年代の2人は院生でも、プロになってからも何度も何度も戦いました。そして、向井六段はそのたびに負け、再び立ち向かいました。実力十分だから挑戦者にはなる、でも謝七段からタイトルは取れない。そういう状態が続いても向井六段はあきらめず、2013年の女流本因坊戦で当時6連覇中だった謝七段からフルセットの末に初タイトルを獲得したのです。

 


 向井六段は言います。「同じ相手に負け続けるのは本当にキツかった。謝さんとのタイトル戦では勝てないことが続きすぎて、自分が挑戦者でいいのかと悩んだことさえあります。でも勝負は実力以外にも、タイミングやその時の体調、対局の流れ、いろいろな要素で決まると私は思っていて・・・。今回も実力的には仲邑さんが上だと思っていたけれど、自分のベストを尽くせばチャンスはあると信じて、負けることは考えませんでした」と。
 どんな相手でもどんな状況でも自分のベストを尽くせばチャンスはある。よく言われることではあるけれど、本当にそれを実践できている人というのは少ないのかもしれません。むしろ、編集Kはいろいろな方に取材をする中で、勝負師はそれが至難だと身に染みて分かっているから繰り返し言うのではないかと思うようになりました。向井六段の不撓不屈はこの当たり前だけれど最も難しい「自分のベストを尽くす」を貫いた結果なのかもしれません。


記・編集K