2026年1月9日に日本棋院で行われた開幕式に引き続き、翌10日から日本女子囲碁リーグ(Li LEAGUE:リーリーグ)の第1ラウンドの対局がスタートしました。本リーグは、日本棋院の経営改革の先駆けの一つでもあります。本稿では、その取り組みについて紹介いたします。
日本棋院の経営改革と日本女子囲碁リーグ
日本棋院が進める経営改革の中で、最も象徴的な取り組みの一つが「日本女子囲碁リーグ」の刷新です。従来の棋戦は「碁を打つ」ことが中心で、対局内容の質こそが価値の源泉とされていました。しかし、今回の改革はその前提に加え、「魅せる」「楽しませる」「盛り上げる」という視点が付け加えられました。
この変化は単なる演出強化ではありません。囲碁人気の回復、棋士の意識改革、日本でもっとも古い文化の一つである囲碁を応援するスポンサー企業の増加、そして日本棋院の経営改善へとつなげる「構造改革」の一つなのです。
日本女子囲碁リーグの目指す姿
日本女子囲碁リーグが目指す姿は「囲碁ファンとともに盛り上げる棋戦」です。JリーグやMリーグのように、ファンと一体となって熱狂を生み出すリーグモデルです。残念ながら、まだまだLi LEAGUEの認知度は高くはありません。囲碁ファンだけでなく、囲碁を知らない層、ライト層に囲碁の魅力を伝えることが大きな課題です。このため、マーケティングや動画制作の外部専門家を招いた「コンテンツ企画委員会」を設置し、リーグの見せ方・楽しませ方・盛り上げ方を徹底的に議論しました。
外部知見の導入で、今まで気が付かなかった視点を取り入れ、ファンやスポンサー・ファーストの取り組みを強化したかったのです。監督・選手とも定期的に会議を行い、ファンやスポンサーを大切にする姿勢を共有しています。棋士自身が「魅せる」「楽しませる」「盛り上げる」意識を持つことが改革の重要な柱となるからです。
「魅せる」「楽しませる」「盛り上げる」を実現する具体策
しかしながら、理念だけでは改革は進みません。その具体策が重要です。今回の改革では、コンテンツ企画委員会の提言の中で実施できるものをできる限り取り入れる形で具体策を検討しました。ここでは、上記の3つのキーワードと施策を結びつけて整理してみました。
- 「魅せる」対局~映像改革とフィッシャー方式の採用~
まず大きな変化は、映像フォーマットや対局方法の刷新です。従来の配信では「盤面が小さく見にくい」「同時に進行を追えない」などの不満がありました。これを改善し、盤面の視認性を高め、棋士の表情や仕草など「人間性」にも触れられる構成へと進化させました。
また、第1回リーグは午前中と午後の配信が中心でしたが、第2回は金曜日の夕方〜夜+土曜日へ移行し、囲碁ファンやライト層が視聴しやすい時間帯に合わせました。また、対局についても1局目を先行して行い、その後2局を並行対局する形式に改め、個々の対局を楽しみたいとの要望にできる限り応える形にしました。
さらに、公式戦として初めてフィッシャー方式を採用しました。持ち時間5分に加え、1手着手するごとに15秒が加算される時間設定は、常に時間管理が求められます。スピード感があり、見る側にとってもスリリングで、ハプニングも起きやすい形式です。序盤では時間を使わずに、持ち時間を貯めて勝負どころで一気に使う戦略性、それから時間に追われた際のミスや攪乱戦法の採用など、従来の囲碁にはなかった「ライブ感」を期待していました。実際の対局でも、中盤のコウ争いで隙を突いた大逆転が生まれるなど、期待どおりの効果が実証されました。 - 「楽しませる」対局~応援トークの重視・ユニフォーム刷新・番外編企画~
今回から対局画面の左上に監督と対局に参加していない棋士が、対局についてトークする画面を設けました。専門用語を使わず、棋士の素顔やチームの裏話を交えた「雑談に近いトーク」を意識しています。
また、ユニフォームも大幅に刷新しました。第1回ではSNSで「ダサい」とコメントされましたが、今回はJリーグやMリーグを参考に、ビジュアル重視で制作し、映像映えするデザインに仕上げました。
さらに、今後、ファンミーティングなどの番外編企画も検討しています。開幕式には、クラウドファンディングに応募してくださった方々をご招待しましたが、九州から駆けつけて下さった囲碁ファンも何人かおられました。これらの方々からは「開幕式は楽しかった」「棋士の方々とお話できた」「棋士の方々の表情が見えるのが嬉しい」などの声をいただきました。「対局を見せる」だけではなく、「参加して楽しんでいただく」重要性を改めて認識しました。 - リーグ全体を「盛り上げる」~SNS戦略とグッズの展開
SNSの強化とショート動画の配信は、今回の改革の中心の一つです。公式Xアカウントでは毎日投稿を行っています。また、選手のカウントダウン動画やインタビューを配信しています。広告やコンテンツがユーザーの画面上に表示された回数を指す指標であるインプレッション数は1,400〜8,500と幅があるものの、平均2,000前後と着実に認知が広がっています。
選手自身が発信することで、棋士の人間性が可視化され、推し活の対象としての魅力が高まります。囲碁人気を高めるためには、トップ棋士の活躍だけでは不十分です。キラリと光る個性を持つ棋士の数が増え、それをファンが認識することで、囲碁人気の幅と奥行きが広がるのです。
さらに、特設サイトでのグッズ展開も準備中です。「気軽に買えるもの」を中心にラインナップを検討しており、ファンの期待に応えたいと考えています。
囲碁ファン・スポンサー・棋士/棋院、三者に広がるメリットを追求
今回の改革はwin-win-winの構築を狙っています。囲碁ファンにとっては、
- 見やすく、分かりやすく、感情移入しやすい
- 囲碁を知らなくても楽しめる
- 「応援したいチーム・棋士」が生まれる
ことが必須です。このために、前記のような取り組みを行っています。一方、スポンサー企業にとっては、文化支援企業としてのブランド価値の向上、女性活躍支援企業としてのイメージ強化、それからイベント参加や露出機会の増加がメリットです。現時点では「囲碁の盛り上げに貢献していただく」という文化支援の面が強いですが、今後は、これに加え企業名の露出機会を増やすため、SNS戦略をさらに強化したいと考えています。ご関心をお持ちの企業の皆さまと、新しい囲碁文化をともに育てていければ幸いです。
また、本リーグは、棋士にとっては成長の良い機会です。対局機会の増加による知名度の向上、団体戦で戦うことによるメンタル面の強化やエンタメ性を身につけることによる活動領域の拡大が可能になります。
日本棋院にとっても、「真剣勝負+エンタメ」という新しい棋戦モデルを磨くことで企画力を高め、多くの人に囲碁を身近に感じてもらうための場です。つまり、囲碁の価値を再定義し、「魅せる」「楽しませる」「盛り上げる」囲碁に進化させる、囲碁を知らない方にも「入り口」として楽しんでいただけるものに発展させる勝負手なのです。
総務省で、モバイル、セキュリティ、情報流通などの政策立案や技術開発業務に従事。東京大学特任教授として、IoT/データ活用によるビジネス革新や価値創造について研究。一般社団法人情報通信技術委員会で、標準化推進業務に従事。早稲田大学教授として、研究マネジメント業務に従事。現在、コンサルティング活動の他、東京観光財団「東京都次世代型MICE推進会議」委員、スマートIoT推進フォーラム「IoT価値創造推進チーム」リーダー、日本棋院理事などとしても活動。

