棋士と囲碁ファンのつながりを強化する新しい仕組み「普及休場制度」の創設 経営改革報告(第10回)

  1. 制度の狙い:囲碁の魅力を"もっと身近に"
     「囲碁を学びたい」「棋士と対局したい」、そんな声を時折耳にします。しかし、公式戦の合間を縫って、棋士が普及活動に十分な時間を割くことは容易ではありません。また、囲碁ファンを増やすには、棋士の方々が「学びを助けるプロ」になることが必要です。
     そこで日本棋院は、棋士が一定期間、公式戦から離れて普及活動に専念できる「普及休場制度」を新たに創設しました。棋士が「普及の現場」に腰をすえて活動する環境を整え、普及のプロになってもらうことが狙いです。
     囲碁ファンを増やすには、幼稚園や学校での囲碁教室や企業などでの囲碁研修、オンライン講座の提供など、さまざまなチャネルを通した活動が求められます。この草の根レベルの活動に棋士の力を活用し、囲碁の魅力をもっと身近なものにしたいのです。
  2. 制度の概要とメリット:囲碁ファンに向けた"新しい動き"
     制度を利用する棋士は、申請・審査を経て普及活動に専念することができます。活動内容は幅広く、囲碁教室の立ち上げ、学校での授業、イベントの企画運営、支部・地域団体等との連携や調整、オンライン講座、SNS発信、講演、執筆、囲碁指導者へのコーチングなど、多様な活動を選ぶことができるようになっています。
     そして、この制度は囲碁ファンに大きなメリットがあります。SNSでの発信やオンライン講座が活発になり棋士と接触する機会が増える、教室や講座の新設・既存教室の充実など囲碁に触れる入り口が増える、公式戦による時間的な制約が減ることでファン向けの企画が実現しやすくなるなどです。特に、これまで棋士と接する機会が少ない地域では、直接触れ合える機会が広がる可能性もあります。
     もちろん、棋士にとっても、普及活動に集中できる環境が整い、収入増の可能性があります。また、現役棋士の肩書のままで活動でき、普及休場中にも普及手当が支給されるというメリットがあります。
  3. 今後の課題:制度を"育てていく"ために
     制度は始まったばかりです。3年後に見直しを予定しており、実際に利用した棋士やファンの声を踏まえて改善し、育てていく予定です。まず、棋士の「学びを助ける力」を高める研修制度の充実が大きな課題です。対象者の年齢や棋力によって最適な学びの方法は異なり、AIの活用など新しい知識も求められます。
     棋士は「囲碁を打つプロ」ですが、必ずしも「学びを助けるプロ」ではありません。このため、コミュニケーション力の向上などの研修が必須です。少なくとも「いい手が全くなかった」「囲碁の才能がない」とコメントするなど、経営改革委員会で何人かの委員が指摘した学習者のモチベーションを下げてしまう指導にならないよう、コミュニケーション力の向上が重要です。
     また、普及活動を支える環境づくりも重要です。地域の囲碁組織との連携、地域の囲碁ファンとの連携、オンライン活動の支援、ファンコミュニティの形成など、制度を実効性あるものにするための取り組みが必要です。
     繰り返しになりますが、普及休場制度は、棋士の活躍の場を広げ、囲碁ファンの学びの機会を豊かにするための取り組みです。棋士が普及活動に力を注ぐことで、囲碁の魅力はより多くの人に届きます。囲碁ファンの皆さまにとっても、棋士の発信や講座が増えるなど、囲碁を楽しむ機会が広がるはずです。囲碁の未来を育てる新しい仕組みとして、ぜひ注目していただければと思います。
日本棋院 理事(元経営改革委員会 副委員長) 稲田 修一

稲田 修一(技術経営士 情報未来創研代表)
総務省で、モバイル、セキュリティ、情報流通などの政策立案や技術開発業務に従事。東京大学特任教授として、IoT/データ活用によるビジネス革新や価値創造について研究。一般社団法人情報通信技術委員会で、標準化推進業務に従事。早稲田大学教授として、研究マネジメント業務に従事。現在、コンサルティング活動の他、東京観光財団「東京都次世代型MICE推進会議」委員、日本棋院理事などとしても活動。