一力天元の三連覇か、志田八段の初挑戦&天元位獲得なるか、天元戦五番勝負をリアルタイム中継

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 囲碁の第51期天元戦五番勝負(新聞三社連合主催)が10月4日に開幕する。3連覇を目指す日本囲碁界のエース一力遼天元(28)に挑むのは、プロ20年目にして初めて七大棋戦に挑戦する志田達哉八段(34)。藤沢里菜七段(27)と横塚力七段(30)に五番勝負の展望を語ってもらった。


  • ―  志田八段はタイトル戦初挑戦です。
  • 横塚 本戦トーナメントの準決勝で村川大介九段、挑戦者決定戦で芝野虎丸十段に勝ちました。この2人は力強い碁を打ちます。志田八段が苦手としていたタイプですが、戦いの碁で結果をつかんでおり、変化を感じます。
  • 藤沢 挑戦者決定戦の内容が良く、充実している印象です。以前はじっくり打って、ヨセで勝負を制し勝ち星を挙げていましたが、2、3年前から戦いの碁も打つようになりました。戦いを好むようになったのか、AIを活用した研究によって棋風を変えたのか聞いてみたいです。
  • 横塚 34歳ですよね。井山裕太王座を除くと、その年齢でタイトル戦に出場できる棋士は少ないので、挑戦権を獲得したのは素晴らしい。現在30歳の自分もまだまだやれるのでは、と刺激になります。
  • ―  一力遼天元について。
  • 横塚 ヨミの正確さが国内随一と言えます。
  • 藤沢 元々強い棋士でしたが昨年の国際棋戦優勝でさらに磨きがかかりました。負けても表情が曇りにくく、精神面でも充実していることが伝わります。最近はとにかく自信を持って打っている印象です。
  • ―  どんな五番勝負に。
  • 藤沢 一力天元は相手に合わせて準備をしてくる棋士です。一方、志田八段は愛用の布石を続けて打つタイプです。いつもと違った布石を用意するのか、注目しています。
  • 横塚 一力天元は、どんな碁も打ちますが、自分から仕掛けるタイプではありません。志田八段も戦うようになったとはいっても、基本的には穏やかな碁。棋風は、似ているところがあります。お互いに仕掛けず、さらさらと半目勝負となる対局が多くなるのかなと見ています。
  • ―  勝負の行方は。
  • 藤沢 両対局者の碁は、じっくりとした展開になるとは思いますが、五番勝負の1局目はヨセ勝負ではなく激しい戦いになるのではと予想しています。今期のシリーズは激しかったり穏やかだったり、いろんな内容の碁を見ることができそうです。
  • 横塚 一力天元が有利と見る人が多いとは思いますが、始まってみないと分かりません。序盤で殴り合いになれば一力天元に分がありますが、志田八段は我慢強いので、息の長い半目勝負になれば十分チャンスがあります。平常心で戦える棋士なので、一力天元を相手にしても萎縮して手が緩んでしまうことはない。勝負は最終局まで行くでしょう。初戦は一力天元、第2、3局は志田八段、そして第4局は一力天元が意地を見せ、第5局にもつれ込む接戦と予想しています。


担当記者コラム

 一力遼天元は、2023年に関航太郎九段から天元を奪い返して以降、七大タイトル戦の挑戦手合を7回連続で制している。
 今年の棋聖戦七番勝負では、井山裕太王座の挑戦を受け、1勝3敗と追い込まれてからの逆転防衛を果たした。以前と比べ精神的に安定し、自信をつけていると感じる。昨年は応氏杯世界選手権で優勝し、今年もLG杯で決勝進出を決め、国際棋戦も好調だ。充実期を迎え、国内第一人者の地位を築こうとしている。
 一力が国内の挑戦手合で戦い続けている井山王座、芝野虎丸十段は、序盤から戦うことを歓迎するタイプで、碁が激しくなる傾向にある。これは国際棋戦で対戦している中国・韓国の棋士も同様である。
 そうした中、一力がいま戦っている棋士と正反対の棋風を持つ志田達哉八段が挑戦者に名乗りを上げた。
 初の七大棋戦の挑戦手合出場を決めた志田は信念を持っている。いま囲碁研究にAIは欠かせないが、激しい手を推奨することが多い。しかし志田は、AIとは対極にあるじっくりとした碁を好み、終盤勝負にかけるスタイルを貫いている。相手をぴったりマークしながら、ひたひたと追走し最後に追い抜く。追われる側にとって、振りほどくのにこれほどやっかいな棋士はいない。
 これまでの対戦成績は一力が10勝4敗で、6連勝中だ。数字の上では一力有利と言えるが、志田のしぶとい追走が一力のリズムを崩せば、番碁で何が起こるかは分からない。
 一力と志田による自信vs信念の激突は、この秋の碁界注目の一戦となる。(新聞三社連合・森本孝高)

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