特集
数々の名勝負を繰り広げてきた両雄の戦いはどちらに軍配が上がるのか―。一力遼天元(29)=名人、王座=に、井山裕太碁聖(37)が挑戦する第52期天元戦(新聞三社連合主催)五番勝負が、10月7日に開幕する。一力天元が防衛し4連覇となるか。それとも井山碁聖が奪取し、通算9期目の獲得を果たすのか。韓国・釜山市で行う第3局は天元戦としては初の海外対局だ。両者の意気込みを聞くとともに、鈴木伸二八段(35)と辻華三段(26)に展望を語ってもらった。
- ― 一力天元について。
- 辻 序盤から終盤にかけてミスがほとんどなく、どんな碁でも打てるイメージがあります。
- 鈴木 今年は大きな舞台で負けが続いている印象がありました。主要国際棋戦LG杯の決勝三番勝負は1勝2敗で初優勝を逃し、その後は棋聖、本因坊と続けて防衛に失敗。かなり苦しい時期だったと思いますが、本因坊を失冠した後からは、内容の良い碁が多くなり徐々に調子を取り戻しています。
- ― 井山碁聖は6年ぶりの天元戦五番勝負です。
- 辻 私では思いつかないような独特な手を打ち、優勢であっても最強手を選ぶイメージがあります。
- 鈴木 タイトル戦で戦う姿を見る機会は減ってしまいましたが、今年は碁聖戦五番勝負を3勝2敗で防衛し、棋聖リーグ、名人リーグでは残留。ギリギリのところで踏ん張っています。
- ― どんな五番勝負に。
- 鈴木 両者の対局を見ると、序盤は井山碁聖が自分の世界に持ち込んでいる印象です。天元戦でも序盤で主導権を握った後、最強手でKOを狙う展開にするはずです。一力天元は食らったパンチに耐えながら、ヨセ勝負を目指すでしょうね。一力天元は優勢に持ち込んだときに勝ち切るのがうまい。そのため一力天元がリードして終盤を迎えると、井山碁聖にとっては厳しい展開になりそうです。
- 辻 井山碁聖は持ち時間の短い碁でも、最強手で激しい戦いを目指し、結果、ヨミ勝っています。
- 鈴木 井山碁聖はある時期から明らかに持ち時間の短い碁に向けて意識をシフトしています。それ以前は長考することが多かったのですが、天元戦のような持ち時間が3時間の棋戦でも、早打ちになっています。国際棋戦で勝つことを意識してのことでしょう。
- ― シリーズの展望を。
- 辻 第1局を勝った方が、有利にシリーズを進めるのではないでしょうか。
- 鈴木 そうですね。ただ、勝負の行方がもつれれば、今年粘り勝ちが多い井山碁聖の方が有利では。早期決着であれば、一力天元。フルセットになったら井山碁聖と予想します。
担当記者展望
一力遼天元の七大タイトル初挑戦の相手は井山裕太碁聖であった。10年前の2016年、第42期天元戦のことである。当時19歳、七段の若武者が、七冠を保持していた井山に挑んでからの10年は、両者が囲碁界の覇権を争ってきた日々だった。
初挑戦となったこのシリーズは、井山の貫禄勝ち(3勝1敗)。翌年の天元戦でも一力が挑戦したがストレートで敗れ、井山は「厚い壁」として立ちはだかった。
だが20年の第46期天元戦で一力が初めてタイトルを奪うと、力関係は徐々に拮抗する。最近のタイトル戦では3回連続で一力が勝利している。
両者の対局数は98局。一力42勝、井山56勝で、16度の挑戦手合のうち8回がフルセット。一力と井山の対局は、現代囲碁界を象徴する黄金カードである。
両者は実績に比べ、今年は結果が出ていない。一力はLG杯で優勝を逃し、棋聖、本因坊と続けて失冠。井山にしても七大タイトルが碁聖ひとつというのは、いかにもさみしい。
しかし、いまはより高いステージを目指すために必要な時間なのだろう。一力は「初心を見つめ直し、囲碁が楽しいから打つ」、井山も「天元戦も含め、持ち時間の短い碁は良いパフォーマンスで打てている」と言い、両者から前向きな言葉が聞かれた。
トップランナーの両者が今期の天元戦に照準を合わせ、いい状態で対局に臨むことは間違いない。(新聞三社連合・森本孝高)













