井山裕太天元の3連覇か? 一力遼八段の初天元獲得となるか?
天元戦五番勝負をリアルタイム中継

特集

◎ 真価問われる挑戦者
 現在の囲碁界の命題は一つしかない。誰が井山裕太6冠の牙城を崩すのか―。この一言に尽きる。
 日本国内に敵なしと評しても過言ではない圧倒的な強さで、頂点に君臨する井山。昨年秋の名人戦において挑戦者の高尾紳路九段に敗れ、全冠制覇である7冠から転落。しかしその後、残された6冠をすべて防衛し、今年は名人戦で挑戦権を得て、リターンマッチの7番勝負を戦っている真っ最中。誰もが困難と思った7冠への返り咲きが、かなりの現実味を帯びている。
 この名人戦の結果はともかくとして(現在は井山の3勝1敗)、井山が現日本碁界における傑出した第一人者であることは、何人たりとも否定することができない。ゆえにファンの興味が「ポスト井山たりうる存在が現れるのか否か」に集まるのは、当然の流れだと言えよう。
 その筆頭候補と目されていたのが、昨年の天元戦でタイトル初挑戦を果たした、一力遼七段であったが、ここにきてその勢いが加速。8月25日に王座戦で挑戦権を得ると、返す刀で6日後の天元戦で2期連続挑戦も決めたのである。
 実はこの一力は井山同様、日本国内ではほぼ無敵と言っていい。今年の負け数は10敗(10月10日時点)。そのうちの5敗は、世界の強豪相手の国際戦なのである。
 ただし、この数字には理由がある。7つあるタイトルのうち6つを井山が保持しているので「井山と対戦するにはタイトル戦の挑戦者になるしかない」という図式が、今の日本碁界に出来上がっているのだ。つまり一力は今年、井山とほとんど対戦しておらず(一度だけNHK杯の決勝で対戦したが負け)、井山以外の棋士にはまず負けていないという、明確な結果が出ているのである。
 従って、一力にとっては10月から始まる天元戦と王座戦の、井山とのダブルタイトル戦が、真価を問われる「棋士としての最大の大勝負」ということになる。焦点はこれまた一つ。一力が井山の域に、追いついているのか否か。
 この二つの5番勝負が今後の囲碁界の成り行きを決める。歴史の大きな節目がまさに今、訪れているのである。
(さの・まこと=観戦記者)

対談

 井山裕太天元(28)=棋聖、本因坊、王座、碁聖、十段=に一力遼七段(20)が挑戦する第43期天元戦5番勝負(新聞三社連合主催)が11日に開幕する。2期連続の顔合わせで、前期は3勝1敗で井山が制した。6冠の井山は名人に挑戦中。再び7冠同時制覇を目指しつつ、この防衛戦を迎える。対する一力も絶好調。今年は王座戦で挑戦者になり、棋聖戦でも挑戦者決定戦まで勝ち進んでいる。両者に対局の抱負を聞くとともに、第39期挑戦者の秋山次郎九段(39)と、両対局者と交流が深い蘇耀国九段(38)に、勝負の行方を占ってもらった。


秋山次郎九段 × 蘇耀国九段
― 本戦を振り返って
秋山 一力七段の他に許家元七段が準決勝、本木克弥八段と大西竜平二段が準々決勝と、若手が勝ち残った。
若手の活躍でわれわれの世代が大変になった。その中で山下敬吾九段だけは若手に強く、今年の碁聖戦で挑戦者になった。
秋山 挑戦者決定戦は山下九段が押していたと思ったが、終盤で頑張りすぎて、逆転を許した。
山下九段は勝ち碁を落とすタイプではないので、それだけ一力七段のプレッシャーがすごいのでしょうね。
― 一力七段の調子は?
秋山 今年はすごく勝っている。負けたのは国際戦が多いが、そこで勝っていてもおかしくない実力をつけてきた。
以前は早碁に強いイメージでしたが、5時間の棋聖戦Sリーグや3時間の天元戦と王座戦など、各棋戦で勝っています。
秋山 以前は実利を意識した打ち方をしていたが、最近は四線、五線に打って、戦いを重視しているのかなと感じます。
今夏に対戦したとき、これまで感じなかったオーラ、雰囲気があった。もともとあった自信が確信に変わったように感じた。
― 対する井山天元は?
秋山 何事もなかったように勝って、再び7冠同時制覇を目指している。すごいとしか言いようがない。
時間をかけて、われわれ世代に勝ち続け、トップまで上がってきた。近年いい勝負をしているのは、高尾紳路名人だけですね。
秋山 常に新しい工夫の手が出てくるので、よく研究していると思う。まだまだ強くなっていくように感じる。
とにかく勉強量がすごい。日本棋院のサイト「幽玄の間」でインターネット中継されている棋譜はすべてチェックしているし、時間が合えば研究会にも参加している。
― 見どころは?
秋山 前期全4局は、序盤から激しい展開になって作り碁にならなかった。今期も同じような展開になるかと思う。
昨年のタイトル戦の中でも、一番やり合っていた。スタートから互いに石を取っちゃうぞという感じで。そこですごいと思ったのは、井山天元が一力七段を力でねじ伏せたところです。
秋山 両者は似ている部分がある。どちらもガンガンやっていくタイプなので力勝負になる。読みがしっかりしていてヨセも強いので、難解な終盤戦を見てみたい。
一力七段は自分のペースで戦いたい。井山天元のいいところが出てしまうと無敵だから。
秋山 技術的にはまだ井山天元の方が上だと思うけど、どちらが勝つかは分からない。3局で終わることはないでしょう。
僕も技術的には井山天元だと思うけど、天元戦は若手がよく勝っている棋戦。一力七段はわれわれ世代と違い、井山天元への苦手意識はないでしょう。臆せず、思い切って戦える。
秋山 一力七段が勝つにしても、フルセットになるかと思う。そろそろ若手が井山天元からタイトルを取ると面白いかなと。
一力七段には勢いがある。ただ、王座戦とのどちらかで結果を出さないと次のチャンスが約束されないぐらい、一力七段の下の世代が迫ってきている。一力七段にとっても勝負の秋になりそうです。
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