新聞三社連合とはお問い合せ




(挑戦者決定戦。2014年9月8日)
◎ タイトル保持者対決
 囲碁界には現在、タイトル保持者が2人しか存在しない。井山裕太天元(6冠)と高尾紳路十段である。
 従って24日に開幕する今期の天元戦挑戦手合は、タイトル保持の比率が「6対1」を保つのか「5対2」へと変化するのかという5番勝負となる。
 両者の対戦成績をひもといてみると、井山が勝ち越しており、2度の挑戦手合でもともに井山が勝利を収めている。数字上は「井山有利」と言わざるをえないが、高尾にとってはすべてが向かい風というわけでもない。
 その理由は2点。
 まず、両者は昨年の本因坊戦で2度目の7番勝負を戦い、井山が4勝3敗で防衛を果たしたのだが、内容という点で高尾は決して劣っていなかったという点である。
 結果的にタイトル奪取はならなかったものの、高尾自身は「自分の現能力をすべて出しきった感があった7番勝負で、井山さんとも好勝負できることを確認できた価値ある戦いでした」と振り返っている。4年ほど前、井山に対しまったく勝てない時期があったが、その井山コンプレックスを打ち払うことができたのである。
 その自信が、今年の十段戦で井山を破って挑戦権獲得という結果となって表れた。当時の井山は夢の全7冠制覇に向けて「残すは十段のみ」という状況だったため、この敗戦は本当に手痛かった。
 逆に高尾からすればこの大急所の一局で井山に土をつけることができた事実は、今回の天元戦5番勝負に臨むにあたって、大きな心のよりどころとなるに違いない。これが高尾にとってのプラス材料の第2点である。
 棋風はともに「じっくり重厚な本格派」であるが、このところの井山は序盤で自ら仕掛けていく積極性が目立つ。従って5番勝負の見どころは「井山の仕掛けを高尾がどう受け止めるか」となるだろう。
 もし高尾が真っ向からの力勝負を選択すれば、毎局のようにハードパンチが乱れ飛ぶ大激闘が繰り広げられるかもしれない。
( 敬称略 、 観戦記者 = 佐野真 )




 井山裕太天元(25)=棋聖、名人、本因坊、王座、碁聖=に高尾紳路十段(37)が挑戦する第40期天元戦5番勝負(中日新聞社主催)が24日に開幕する。タイトル保持者同士による好カードで、井山天元は、9月に始まった名人戦7番勝負、今月からの王座戦5番勝負と併せて防衛し、念願の7冠独占へとコマを進めたいところ。逆に挑戦者の高尾十段が勝てば、十段に加え2冠となり、「井山一強時代」に風穴を開けることになる。両対局者に抱負を聞くとともに、高尾十段の兄弟子に当たる三村智保九段(45)と、井山天元ら20代以下の棋士の兄貴分的な存在の張豊猷八段(33)に、見どころを語ってもらった。

三村智保九段 × 張豊猷八段
― 本戦トーナメントを振り返って。
      
三村智保九段 張豊猷八段
三村 : 若手の一力遼七段は惜しかった。準決勝の高尾十段戦では微差での戦いが終盤まで続きました。
張 : 僕もその棋譜を並べたが、どちらがいいのかよく分からない、難解な碁でした。
三村 : 一力七段をはじめ、今の若手は中国や韓国の影響を受け、読みの力をつけることを重視していますね。
張 : 一力七段は対局で忙しいし、学校(高校生)にも行っているが、ネット碁や研究会で実戦をたくさんこなしています。
三村 : どこの研究会でもよく勝っていると聞きます。近い将来、必ずタイトル戦に登場するでしょう。高尾十段がそんな伸び盛りの若手を押さえて挑戦者になったのは、素晴らしい。

― その高尾十段の調子は?
張 : 最近、毎日のように研究会に参加しています。これが好調の要因では。若手たちと早碁を打っているので、棋風も変わってきました。
三村 : もともとはきれいで緻密な碁。最近は中国や韓国で流行している序盤研究にも熱心で、世界戦で勝つための練習をしているのでしょう。
張 : 早碁を打つようになって、持ち時間の短い対局にも自信を持たれてきたように感じます。
三村 : 大変な努力家で、一度は名人・本因坊を張った男が、今は若手と一緒になってトレーニングをしている。この姿勢がすごい。
張 : 7月に入ってから勝ちまくっていて、調子はあがってきていますね。

― 対する井山天元の調子は?
張 : 今年は5月の本因坊戦が始まるまで、あまり対局がなくて、調子がつかめなかったようです。始まってからは調子はあがってきています。ただ、名人戦の第2局、第3局では秒読みで乱れた。そこが少し気になるところ。
三村 : そう、僕も気になっていた。これまでは秒読みになっても間違えなかったから。
張 : 僕の主宰する研究会の時にもそういうことがたまにありました。本人の中では、秒読みが課題になっているのかもしれない。

― 5番勝負の見どころは?
三村 : 井山天元と内容的に一番いい勝負をしているのが高尾十段だと思います。連敗していたころも、井山天元に終盤で逆転されることが多かった。
張 : 相性はちょっとしたきっかけで変わることがある。今年の十段戦挑戦者決定戦で負けた相手なので、井山天元にも嫌な感じがあると思います。

― どんな対局を予想する?
三村 : 普通に予想するなら、井山天元が動いて、高尾十段がそれを受ける展開。でも、最近は高尾十段からも動くようになったので、これまでと違う展開が見られるかも。
張 : 僕は戦いの碁になると思う。また、面白い布石が見られるのでは。井山天元はいろいろな布石を試しています。
三村 : 井山天元は見た瞬間は驚く手でも、調べてみるとなるほどと納得させられることが多い。僕らとは見えている世界が違うのかなと感じます。
張 : 調子がいい両者なので、第5局までもつれると予想します。
三村 : 高尾十段は作戦を準備してくるでしょう。まずは序盤の戦法に注目です。戦法以外にも、激しく押していくのか、穏やかに打って細かい勝負に持ち込むのか、戦い方も気になるところですね。
新聞三社連合 北海道新聞 東京新聞 中日新聞 神戸新聞 徳島新聞 西日本新聞 日本棋院 関西棋院