関天元の二連覇か、伊田九段の初天元位獲得か、天元戦五番勝負をリアルタイム中継

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林八段・上野四段対談

 囲碁の第48期天元戦五番勝負(新聞三社連合主催)が10月3日に開幕する。昨年、初の七大タイトル挑戦で天元奪取を決め、一躍スターダムにのし上がった関航太郎天元(20)に挑戦するのは伊田篤史九段(28)だ。
 初防衛戦に臨む関天元と、2016年の十段戦以来6年ぶりとなる七大棋戦の挑戦手合登場となった伊田九段に意気込みを聞くとともに、林漢傑八段と、関天元と同門で同い年の上野愛咲美四段に五番勝負の展望を語ってもらった。


  • ―― 関天元の棋風は。
  • 上野 戦いの碁で、手が見える印象です。序盤、相手が研究していそうだなという場面で、自分は勉強しているから大丈夫だという自信があるのか、相手の研究を受けていきます。特に難解定石に詳しいですね。
  • 林  オールラウンダーで、AIソムリエとあだ名がつくほど多くの種類のAIを使いこなしていますね。
  • 上野 終盤、何カ所も狙いがあるような形になると、形勢判断に関係なく厳しい手を考えています。形勢が良いと安全運転しがちですが、相手に薄みがあると「えいっ」といっちゃうタイプですよ。
  • ―― 挑戦者となった伊田九段の棋風は。
  • 林  伊田さんは、詰め碁で鍛えた読みで、大石を取る力強い碁が特徴です。これが伊田さんの碁の本質です。基本は相手の石を取りにいきたいところなのですが、AIが出てきたことで、今のプロの世界では、シノギの技術が向上してきています。そのため一時期は三々を打つなど、棋風改造をされて、落ち着いた碁も打つようになりました。今はそれが完成された感じがありますね。バランス型にはなりましたが、得意な形に持ち込んで、石が取れそうだな、となったときには力を出してきます。
  • 上野 インターネットで伊田先生に打っていただくと、「ここで打たれたらいやだな」というところに、必ず打たれます。そして、私の予想を超えてきて負けてしまいます。大石を取るのがうまいイメージがあります。
  • 林  AIを活用した研究で、最新型に詳しい。特に部分戦の知識に関しては碁界屈指で、関さん以上とも言えます。
  • ―― 伊田九段はヨセ巧者としても知られています。
  • 林  細かく計算できるイメージで、じっくりとしたヨセになったら伊田さんに分があるかもしれません。
  • 上野 地味なヨセの碁なら伊田先生というイメージはあります。
  • ―― 五番勝負はどんな戦いに?
  • 林  関さんにとって、挑戦者として臨むのと、天元として防衛戦を戦うのは、感覚が違うはず。去年と比べ戦いづらいのではないでしょうか。しかし五番勝負に合わせしっかり調整してくるはずで、勝敗は分からないですね。
  • 上野 調整となると関君は、めちゃくちゃうまいです。気合が入ったときの関君は、実力の3倍くらいは余裕で出してきますから。
  • ―― 関天元は、ここ一番の対局に調子を合わせるのがうまい?
  • 上野 それのプロですね。小学生の時にワールドユースで優勝したときもそうです。
  • 林  新人王戦で優勝したときもそうでしたね。
  • 上野 あのときは、佐田さん(篤史七段)の方が分があるかな、と思っていました。みんなの予想を超えてくるんです。
  • ―― 伊田九段は久しぶりの七大タイトル戦の登場となりました。
  • 林  伊田さんの奥さまの万波奈穂さんに近況を聞きました。以前の伊田さんは、家族のためにがばっていて力んでしまっていたようです。奈穂さんが「私たちのために勝たなくてもいいから」といったところ、結果が出てきたようです。奥さんの支えは大きいですね。
  • 上野 伊田先生はゆるふわな感じですね。関君の方はガツガツモード。関君からは天元を絶対防衛したい強い思いが伝わります。
  • ―― 対局に臨む心の持ち方は、対照的。どんな展開が予想される?
  • 上野 1局目の内容次第。1局目に関君が勝てば、関君は乗ります。しかしもし内容が悪く負けてしまったら、立ち直るのは難しいかもしれません。
  • 林  フルセットまでいったら、冷静な伊田さんでしょうか。上野さんはどう思う?
  • 上野 お互い勝負強いので難しいですね。お互い最終局に強いのですが、関君と予想します。

展望

 「自分の碁が打てれば結果はついてくる」。十段経験のある実力者が、6年ぶりに七大タイトル戦の舞台に戻ってきた。
 挑戦者・伊田篤史九段は、日本碁界のトップ集団を走る棋士。2016年の十段戦以来、七大棋戦での番碁登場がなかったことは意外なほどだ。今期天元戦では一力遼棋聖、井山裕太名人を破っており、文句なしの挑戦権獲得となった。一時期は結果にこだわり過ぎていたこともあったというが、今は自分の碁を打つことに専念。精神面の安定が光る。
 昨年20歳で、当時の天元・一力遼からタイトル奪取し、一躍日本碁界の顔となった関航太郎天元にとっては、初防衛戦となる。タイトル奪取後、他の七大棋戦でリーグもしくは本戦入りすることはなく、タイトルホルダーとしては不本意な成績だった。だからこそ、この天元防衛に狙いを定めて臨むはずだ。
 伊田九段は豪快な石取り碁が魅力。関天元も、戦いになれば避けずに受けて立つタイプで、激しい戦いが続くシリーズとなるのではと思っている。
 最近の成績からみれば、挑戦者に分があり、関天元にとっては試練の五番勝負となる。しかし関天元は大勝負に強い性格で、初戦から全力でやってくるはずだ。この一年の不完全燃焼をはらすような充実ぶりを、関天元が開幕局で見せてくれれば、シリーズはおもしろくなる。
 ポイントは初戦。ここまで第1局が気になる五番勝負もめずらしいのではないだろうか。(新聞三社連合・森本孝高)

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