一力天元の二連覇か、関七段の初七大タイトル獲得なるか、天元戦五番勝負をリアルタイム中継

対談

  囲碁の一力遼天元(24)に関航太郎七段(19)が挑む第47期天元戦(新聞三社連合主催)の五番勝負が10月5日に開幕する。関七段は初の七大タイトル挑戦。勢いある挑戦者を迎え撃つ一力天元は今年碁聖を失ったものの、この秋は名人挑戦など各棋戦で重要対局が続いている。五番勝負の行方を首藤瞬八段(39)と、関と同じ藤澤一就八段門下の木部夏生二段(26)に展望してもらった。

首藤瞬八段 × 木部夏生二段
  • ―― 関七段が挑戦者となりました。
  • 首藤 本戦トーナメントは、トップ棋士がそろっていますから勝ち抜くのが大変。まさか関七段になるとは思わなかったですね。物おじしないタイプで緊張することなく常に堂々としています。私は同じ研究会に入っていて、高尾先生(紳路九段)と対局している姿をよく見ています。もともと布石は強かったのですが、中盤の終わりから終盤の精度が上がってきており、読みや計算の能力がトップ棋士に近づいてきています。
  • ―― 木部二段にとって関七段は同じ藤澤一就八段門下で、弟弟子に当たります。
  • 木部 初めて会ったのはプロになる前で、その時はわんぱくでいたずらっこ。師匠も手を焼いていました。しかし最近は礼儀正しさが備わって好青年になりました。囲碁に対する好奇心を残しながら、成長しているのを感じます。AI(人工知能)が登場した当初は、誰よりものめり込んでいましたが、少したってから落ち着いて、AIだけではなく自分で考えるようになっていきました。そのころから序盤の精度がぐっと上がったように感じます。やんちゃな性格だった割には棋風は落ち着いていて、大局観が優れています。
  • ―― 対するは一力天元です。
  • 木部 対局に向かっているときは鋭利な空気感を漂わせていますが、普段は笑顔を絶やさず、タイトルホルダーとしてしっかり気遣いができる方です。ギャップがすごくて、大ファンです。
  • 首藤 井山さん(裕太棋聖)に碁聖を取られ、名人戦第1局でも敗れ、危うしと思ったのですが、第2局の半目勝ちで、2日制の対局で初勝利。これが良いきっかけになる気がします。
  • ―― どのような五番勝負に。
  • 首藤 関七段が勝つとすれば、得意の序盤でリードして逃げ切る展開です。もちろん一力さんは中盤で激しい戦いを仕掛けるでしょうが、関七段が対応できるか。ここに五番勝負の面白さがあると思います。両者は初手合なので、一力天元は、挑戦者との間合いをつかめず戸惑うかもしれません。第1局が重要ですね。
  • 木部 粘り強く戦えば、関七段にもチャンスがあると思っています。第1局で関七段が自分の碁を打てば、その後もしっかり戦えるはずです。
  • 首藤 予想するなら一力天元有利ですが、タイトル戦が続くと気づかない疲れもあり緊張感を保つのは難しいものです。関七段は、若くて勢いがあるので予想を超えることがあってもおかしくないと思っています。

エッセー

19歳の挑戦者

 19歳の関航太郎七段が、天元戦本戦に初出場で、挑戦権を獲得した。10代での七大タイトル挑戦は井山裕太棋聖=名人、本因坊、碁聖=、一力遼天元、芝野虎丸王座に続く快挙である。
 いまの囲碁界は、四冠を保持する絶対王者の井山棋聖を「令和三羽烏」の一力天元、芝野王座、許家元十段が追いかける構図となっている。ここに19歳の関七段が割って入ることができるか、囲碁界のこれからを展望する上で重要なタイトル戦となった。
 関七段はAI(人工知能)同士の対戦を見るのが楽しみといい、そこから新しい発想を得ている。棋風はどんな碁にも対応するオールラウンダーだ。五番勝負ではどのような序盤戦術を見せるかにまず注目したい。
 自在性を備える挑戦者を迎え撃つ一力天元。手厚く打ち回し、戦いはいつでも歓迎というタイプである。中盤が激しくなることは必至で、この戦いをどちらが抜け出すか。どちらも読みのスピードには自信があるだけに、見応えのある激戦が随所で見られそうだ。
 実績は断然一力天元の方が上だが、心配なのはこの夏からタイトル戦が続いていることである。碁聖戦ではフルセットの上、井山に敗れ失冠。名人戦七番勝負にも登場し再び井山に挑んでいる。棋聖戦の挑戦者決定トーナメントと重要対局が続く中、疲れを残さずいかに戦い抜くことができるかが課題となる。
 関七段は、大舞台の方が実力が発揮できるタイトル戦向きの性格だ。天元戦一本に照準を絞って準備できる挑戦者は、シリーズの序盤で流れをつかみたいところ。気合が空回りせず、自分の碁を打ちきることができれば五番勝負は面白くなる。

(新聞三社連合・森本孝高)
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