新聞三社連合とはお問い合せ



 高尾紳路天元への挑戦者には井山裕太棋聖=名人、本因坊、碁聖=が躍り出た。井山は前期、3期連続で保持していた天元の座を高尾に追われた。つまり、井山にとって今期はリターンマッチということになる。
 ここで時計の針を昨年の今ごろに戻してみたい。当時、井山は棋聖、名人、本因坊、王座、天元、碁聖の6冠を保持していた。あと十段を加えると、囲碁界の7大タイトル同時制覇という初の大偉業が、目前に迫っていた。ファンの期待も大きかったし、井山自身も目標に掲げていた。
 ところが年末、王座、天元と相次いで失冠する。それぞれ相手は、村川大介王座と高尾で、これがため井山は4冠で年を越した。7冠同時制覇は、遠くなったと思われた。
 しかし、井山は目標を見失ってはいなかった。今年に入って、棋聖、本因坊、碁聖と立て続けに防衛し(3棋戦とも挑戦者は山下敬吾九段)、高尾を挑戦者に迎えた名人戦では、4連勝で防衛した。
 驚嘆すべきはここからだ。防衛戦の傍ら、井山は返す刀で王座戦と天元戦の挑戦者に名乗り上げた。タイトルを失えば、本戦シードとはいえトーナメント1回戦からの出直しとなる。なのに井山は王座戦で4連勝、天元戦で5連勝で、まるで当然かのように、苦もなくひのき舞台の挑戦手合に戻ってきた。すごみを増したと感じるのは筆者だけだろうか。
 受けて立つ高尾は、十段に天元を加えた2冠で今年に入ったが、伊田篤史八段を挑戦者に迎えた十段戦に敗れ、現在は天元の1冠となっている。ただし、前述したように、名人戦で挑戦権を得て井山と死闘を展開した。「高尾健在」を示すには十分である。
 高尾、38歳。井山、26歳。時代は、山下九段、高尾、羽根直樹九段、張栩九段の平成四天王の時代から井山一強時代へと移りつつある。だからこそ、高尾も意地を見せるとき。熱い5番勝負になりそうだ。
(囲碁観戦記者=かわくま・ひろゆき)



 高尾紳路天元(38)に井山裕太棋聖(26)=名人、本因坊、碁聖=が挑戦する第41期天元戦5番勝負(新聞三社連合主催)が23日に開幕する。前期と立場を変えての顔合わせとなったが、先に行われた名人戦では井山名人が高尾天元を破り防衛。高尾天元としては天元位を守りたいところ。対する井山棋聖は王座戦5番勝負にも出場。王座と天元を奪取し、三たびの6冠を目指す。両対局者に抱負を聞くとともに、日本棋院理事を務める中小野田智己九段(45)と、第39期天元戦挑戦者の秋山次郎九段(37)に見どころを語ってもらった。

中小野田智己九段 × 秋山次郎九段
― 井山棋聖が挑戦者になりました。
  
中小野田智己九段 秋山次郎九段
中小野田 今期は若手が本戦に多く入りました。昔から荒れる天元戦≠ニ言われ、若手の活躍が注目されています。
秋山 それでも、準々決勝には10代から40代までの実力者が勝ち残りました。
中小野田 挑戦者決定戦は結城聡九段がリードしていましたが、中盤で井山棋聖が結城九段の要石を取って逆転しました。
秋山 井山棋聖はあの石が取れなかったら楽な碁ではなかったはず。ぎりぎりの勝負でした。
中小野田 順当に勝つというのも難しいと思いますが、井山棋聖はさすがでした。

― その井山棋聖の調子と碁は?
中小野田 昨年末、急に調子を落としましたよね。疲れが出たのかなと思いました。
秋山 王座戦と天元戦、ともに2勝1敗とリードを奪いながら、どちらも2連敗してしまいました。
中小野田 2つのタイトルを失冠して迎えた今年最初のタイトル戦、棋聖戦で3連勝3連敗で迎えた第7局を踏ん張って制したのが大きかったでしょう。あれから復活した感じがします。
秋山 その後、本因坊と碁聖、名人を防衛しました。勝ちまくっていて、絶好調です。
中小野田 7冠同時制覇については、ここ数年が勝負でしょう。井山棋聖の碁は序盤から意欲的な手を打っていきます。また、リードしてもまったく緩まずに厳しい手を打つ姿勢はすごいです。
秋山 私が2年前(第39期)、井山天元に挑戦したときは、序中盤で少しでもリードされたらもう取り戻せない、というプレッシャーがありました。それは他の棋士とは違うものでした。

― 対する高尾天元の調子と碁は?
秋山 いつもはもっと勝っている棋士ですから、こんなに負けているのは意外です。
中小野田 十段戦で若手の伊田篤史十段(当時八段)に負けたのはびっくりしました。内容は全体的には悪くなかったと思いますが…。今年はらしくないミスが見られますね。
秋山 それでも本因坊戦リーグ陥落後、すぐに復帰するなど、勝つべきところでしっかり勝っています。それに名人戦の挑戦者にもなりました。調子が悪いとは言えないです。
中小野田 高尾天元の碁は、手厚くてなかなか崩れないイメージで、負かすのは大変です。
秋山 手厚いことをよく言われていますが、私はシノギがうまいという印象です。

― 5番勝負の見どころは?
中小野田 井山棋聖が仕掛けて、高尾天元がそれを迎え撃つ展開が予想されます。
秋山 井山棋聖はなにげない局面からでも手を作っていくところがある。最近はその部分がさらに強烈になってきているように感じますので、激しい碁になるかと思います。
中小野田 二人はタイトル戦での白番の勝率がいいです。同じ顔合わせの前期も5局すべて白番が勝ちました。ここも注目ポイントの一つだと思います。
秋山 高尾天元は以前、井山棋聖の7冠達成を阻止した実績があります。勢いのある井山棋聖ですが、この5番勝負はもつれたら高尾天元乗りです。
中小野田 高尾天元にはタイトル保持者として踏ん張ってほしいし、井山棋聖の7冠の夢もかなえてほしい。そういう囲碁ファンが多いのではないでしょうか。どちらが勝つにしろ、熱戦を期待したいですね。
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