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(挑戦者決定戦。2012年9月20日)
◎来るか、井山時代
 井山裕太天元(23)=本因坊、碁聖、十段=の初防衛戦となる第38期天元戦の挑戦者には、河野臨九段(31)が名乗りを上げた。碁界の晩秋から初冬にかけては、名人戦から王座戦、そして天元戦の季節である。名人戦は山下敬吾名人(34)に対し、羽根直樹九段(36)が挑戦し、現在熱戦を展開中。張栩王座(32)=棋聖=に井山が挑戦する王座戦も10月下旬に開幕した。
 碁界にはビッグタイトル戦と呼ばれる公式戦が7つある。先の名人戦、王座戦、天元戦に、棋聖戦、本因坊戦、碁聖戦、十段戦を加えた7つだ。後の方の4棋戦は、今年の挑戦手合日程をすべて終えている。この結果を踏まえると、日本碁界に大きなうねりが生じていることが分かる。
 高尾紳路九段(36)が張に挑戦した棋聖戦は張が4勝3敗で辛くも防衛を果たした。その張が井山に挑戦した十段戦は、井山の3勝1敗。張の十段返り咲きを阻んだ。井山は返す刀で、本因坊戦で山下に初挑戦。4勝3敗で下し、初めて本因坊の座に就いた。井山はさらに碁聖戦で羽根にも挑戦。3連勝のストレートで、これも初めて碁聖位を奪取した。
 見てきたように、昨年初めて天元となった井山の勢いがすごい。天元・十段の二冠で年を越すや、十段防衛、本因坊と碁聖を初挑戦で確実にものにして、現在四冠。さらに冒頭でも述べたように、王座戦挑戦も決めた。加えて棋聖戦でも挑戦者決定戦に進出しており、挑戦まであと1勝の位置にいる。つまり、五冠目、六冠目までが視野に入っているということになる。
 将棋界では、羽生善治王位による全七冠制覇があるが、碁界にはまだない。「同一時期」という条件を外したグランドスラムにしても、達成者は趙治勲25世本因坊(56)と張の二人だけである。
 全冠制覇は容易なことではない。井山もまだ意識していないだろうし、周りもほうっておかないだろう。それでも現在四冠で、五冠、六冠が視野に入っているだけでも特筆できる。「平成四天王vs井山裕太」というここ数年の碁界の図式から一歩抜け出した感がある井山。井山の碁界制圧がなるのかどうか。その意味でも今期の天元戦は注目である。
(川熊博行=囲碁観戦記者、初出を除き敬称略)




 井山裕太天元(23)=本因坊、碁聖、十段=に河野臨九段(31)が挑む第38期天元戦5番勝負が11月5日、北海道釧路市で開幕する。昨年初の天元位に就いた井山天元は現在、四冠を手中にする注目の棋士。連覇に向けた防衛戦となる。同時期に行われている王座戦にも挑戦者として臨んでおり、気力も充実している。一方、挑戦者の河野九段は天元3期の実績を持つ実力者で、復位へ闘志を燃やす。今年は名人戦、本因坊戦の各リーグでも挑戦権争いに絡み、安定した成績を残してきた。そんな両者に5番勝負に臨む抱負を聞くとともに、石田章九段(63)と秋山次郎九段(34)に見どころを語り合ってもらった。

石田章九段 × 秋山次郎九段
― 河野臨九段が挑戦者になりました。
      
石田章九段 秋山次郎九段
石田 : 今期の(挑戦権を争う)本戦トーナメントは安斎伸彰六段の活躍が目立ちましたね。山下敬吾名人、王銘エン九段という強豪に勝って、挑戦者決定戦まで進みましたから。
秋山 : 安斎六段はこれまで、若手棋戦で結果を出していました。富士通杯のトーナメントを勝ち上がり、日本代表になったことがあります。着実に力を付けてきたという印象ですね。
石田 : 安斎六段は初めての挑戦者決定戦でしたが、この碁は河野九段とのこれまでの経験の差が出ましたね。河野九段は挑戦者になるべくしてなったという感じです。
秋山 : あらためて、この両者の対局を振り返ってみると、河野九段の充実ぶりを感じさせられた内容となっていますね。

― その河野九段の棋風は?
秋山 : 形勢が良くなった時の勝ち方がうまい。碁というものは優勢になると手が緩んでしまうこともあるんですが、河野九段は一手も緩まず的確に勝ち切ることができます。
石田 : 私は本戦トーナメント準決勝で河野九段と当たったんですけど、序盤で私がミスをして、形勢を損ねてしまいました。そしたら、その後は、勝つチャンスが巡ってこなかった。
秋山 : 布石の研究にも余念がないですよね。インターネットで中国や韓国の棋譜も手に入るので、いろいろ調べているのでしょう。
石田 : 確かに、ほとんどの型を知っている感じです。よく研究していると感じます。

― 挑戦を受ける井山天元の棋風は?
石田 : 読みにない手というか、思ってもいない手を打ってくることが多いですね。
秋山 : 発想が柔軟なのでしょう。常識にとらわれず、他のプロが気がつかない手を打ち、それで勝っている。大局観がいいということです。
石田 : ヨセも強いし、戦いの碁やシノギの碁など、いろいろ打ちこなしますね。
秋山 : どれかひとつでも欠けているとタイトルなんて取れないでしょうが、今の井山天元にはスキがない。

― 5番勝負はどんな勝負に。
石田 : 序盤から激しい戦いが見られそう。お互いに少しでも妥協すると負けだと思って、打っていくことになるでしょうね。
秋山 : 両者ともに、終盤がしっかりしている棋士です。一度形勢がどちらかに傾いてしまうと、優勢になった方がそのまま逃げ切ってしまう可能性が高い。なので、序盤、中盤が勝負になってくると思います。最初から目が離せない碁になりますね。
石田 : 河野九段としては、先にリードを奪って手を緩めず、逃げ切り勝ちの展開にしたい。複雑な局面になると、井山天元が力を発揮しそうですから。
秋山 : 私はここ2年、河野九段には4連敗しているんですが、その対局などで得た印象からみて、3勝2敗で河野九段の奪取と予想したいですが…。
石田 : できれば2勝2敗で最終戦に持ち込まれ、大熱戦になる展開を期待したいですね。
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