棋士が選んだこの一手

大橋拓文が選んだこの一手

対局日 1939年9月28日
棋戦名 呉清源―木谷實 打込み十番碁第1局 総譜はこちら
対局者
(段位は当時)
黒 木谷實七段
白 呉清源七段



  • 木谷實七段
  • VS

  • 呉清源七段


< テーマ図(白番) >
 私がこの碁に最初に出会ったのは小学生の低学年の時。囲碁好きの父が図書館で借りてきた本に載っていました。私は昔の碁が好きで秀策先生や道策先生の碁をよく並べて勉強していましたが、中でも呉清源先生の碁を一番多く並べていました。そして呉清源全集で一番好きだったのがこの碁です。相手は木谷實先生で、当時この2人が群を抜いた強さでした。
 テーマ図は黒7まで右下で黒が生きて白の手番。すでにヨセに突入していますが、ここから気合のぶつかり合いで大変化が起こります。
  • < 1図 >
     白1、3とヨセれば普通で、これでも細かいながら白は悪くなさそう。しかし呉先生は物足りないと見てさらに追及します。
  • < 2図 >
     実戦は白1とスベリました。仮に黒2なら白5まで1図に比べて2目得。これが呉先生の注文です。
  • < 3図 >
     そこで木谷先生は白1のスベリに対し、黒2、4と逆モーションで反発しました。コウで戦うつもりですが黒の負担も相当なものです。
  • < 4図 >
     黒6以降コウ含みに事はどんどん大きくなっていきます。

  • < 4図 >
     4図から30手ほど進んで一段落したのが本図です。コウ争いは白が勝ち、黒の一等地である右上を白がとことん荒しました。黒は代償として左上で生きるフリカワリとなりました。テーマ図からは全く想像がつかない進行です。たった2目のためにプロはこんなに戦うものなのかと、当時小学生だった私は大きな衝撃を受けたことを覚えています。
     そしてこのフリカワリは白がうまくやったようにも見えますが、実は黒が得をしているということにもまた驚きです。木谷先生が気合の反発から盛り返しましたが、この後のヨセで呉先生が黒の弱点をうまく突き、最後は白が2目勝ちで決着しました。
     コミが無いこの時代では黒番で勝つのが当たり前。十番勝負の第1局から白番で勝利を収めた呉先生は勢いそのままに木谷先生を先にまで打ち込みました。何年経ってもこうした名局が次世代に受け継がれていくことを願います。
     余談ですが、この碁を打っている最中に木谷先生が頭を使いすぎて(?)鼻血を出したことも有名なエピソードです。

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