棋士が選んだこの一手

上野愛咲美が選んだこの一手

対局日 2021年4月2日
棋戦名 第76期本因坊戦リーグ 総譜はこちら
対局者
(段位は当時)
黒 芝野虎丸王座
白 羽根直樹九段


< テーマ図(黒番) >
 本因坊戦リーグの最終対局で芝野さんが勝てば挑戦が決まる大一番。相手は羽根直樹九段です。
 白1から分断されて左下の黒が封鎖されました。さらに白7と詰められては攻め合いでも勝てません。しかし芝野さんは驚きの一手でこのピンチを切り抜けます。
  • < 1図 >
     芝野さんが打ったのは黒1の切り!? 部分で見たら意味不明すぎる一手です。実際にAI評価値もこの一手で30%も落ちました。しかし芝野さんはAIの読みを上回る先の先の先まで読んでいました。
  • < 2図 >
     普通に考えれば白2、4とカカえられて黒▲は大悪手。しかし芝野さんは部分的に大損してでも黒5のアテが打ちたかったのです。次に黒aと打たれては大変なので当然白6とツギますが――、
  • < 3図 >
     ここで黒7、9の出切りを発動させるのが狙いでした。黒15のツギのあとaのシチョウを防いで白16は必要な守りです。
  • < 4図 >
     続いて黒17の押しが気づきにくい手。白18と突き出させてから黒19、21が場合の好手で黒29まで▲が働いてピッタリ捕まります。ここまで進めるとAIの数値も急上昇。ようやく1図の黒1が好手であると認識しました(笑)
  • < 5図 >
     4図の白26では1のツギも読んでおかないといけません。これには黒2の切りが成立します。白3とアテられて取られそうですが、黒4と逃げて際どくシチョウを回避しているのです。中の白は二手なのでゲタでは間に合いません。
  • < 6図 >
     実戦は黒1の切りに対し、羽根先生も2図から5図までを読み切って白2と左辺を受けました。ただし、黒3と連打できれば黒は大満足。シノギ名人の羽根先生でもさすがにこれは大変そうです。「この一手」で芝野さんが勝勢になり、わずか97手で中押し勝ちとなりました。
     1図の黒1は一手でも読み落としがあると終わるので、読みによほどの自信がないと打てません。対局が終わったその日にこの手のことを本人に尋ねたら「なんか読めた」とあっさりしたものでした(笑)
     芝野さんの読みの深さと大胆な発想がAIを超えた一局でした。

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