棋聖本因坊道策の本を作ることになった。私としては初めての著書でもあり、大いに張りきって研究に打ちこんだのであるが、道策の世界は調べれば調べるほどに広く、深く、改めて古今無双の大棋士との認識を新たにした次第である。
　もちろん私の研究などは、全体像のほんの一部ではあるが。道策の碁には、碁のあらゆるものがある。強烈無比の攻め、鮮やかな凌ぎ、雄大きわまりない大作戦、そしてときにはものすごい地のからさ、それが次の瞬間には全く別の方向に転換したりもする。必要なときに必要な手がおのずと湧いてくるという観があり、盤上に響き渡る一手一手は、何度並べても感動を呼ぶのである。
　それはまさに天来の妙音でもあった。読者諸賢がこの雰囲気を味わっていただけるものならば、著者としてこの上ない幸いである。