学校教育・地域とふれあう囲碁

日本棋院 普及部

21世紀の激動の時代に、学校教育は大きく変わろうとしています。
 文部科学省では今までの取組みや改革をさらに押し進めるため、2001年(平成13年)を「教育新生元年」と位置付け、「21世紀教育新生プラン」に基づいた改革実行を推進しており、さらにより良い教育を目指すため、学校・家庭・地域が一体となり、さらに産業界、関係機関などあらゆる分野の協力を必要としています。日本棋院では以前より青少年健全育成として囲碁が学校教育に役立つことの理解を求めてきましたが、近年、「自ら学び、自ら考える力の育成」、「生きる力を育む」といった学校教育の改革テーマが囲碁を通じて得られることに、あらためて各教育機関をはじめ他分野からも囲碁の素晴らしさが注目されています。

囲碁の効能

 囲碁は集中力が身につき、創造力を育み、発想が豊かになる頭脳ゲームです。
 人間の脳は通常、左脳で計算・暗記・論理的思考機能を受持ち、右脳は感覚的・形や空間等の認識、大局的視野での判断力を受持つと言われ、医学的にも囲碁は右脳を刺激し、判断力を高め、ストレス解消に効果があることは既に認められています。さらにはボケ防止・脳卒中のリハビリ、予防面でも注目されています。しかし効能はそれだけではありません。囲碁は子供からお年寄りまで誰でも生涯楽しめるので、現代社会で希薄になりつつある家族・師弟・先輩等との年代を越えたコミュニケーション、地域社会でのコミュニケーション、世界各国との交流に大変役に立ちます。年齢、性別を問わず、国境も関係無く誰でも楽しめる囲碁は本当に素晴らしいものなのです。

人格育成としての囲碁

 盤上の交点ならどこに打ってもよい自由なルールで「かたち」を創り上げていくのが囲碁です。破壊・征服を目的とした他のゲームには無い自由な発想と創造性があります。
 普段は落着きがなく、あきっぽい性格だと思われた子供が、突然何かに興味を持ち始め、急に熱中することがあります。これは成長過程での出来事ですが、興味を持つという「きっかけ」があると子供は感心するほどの集中力を発揮します。囲碁はおおいに「集中力を養う」練習になります。

 囲碁が少し出来るようになると、相手との対戦で勝ち負けが生じます。囲碁は自分の考えで打ち、勝ち負けは自分の責任で自己評価しなければなりません。この勝ち負けによる喜び、悲しみ、葛藤が人格育成に必要な感情や心をコントロールする訓練となり、子供たちを大きく成長させます。いつも一等賞だと思ってきた子供には辛いことですが、「生きる力を養う」チャンスでもあります。
 またこの自己抑制がバランス感覚につながり、物事の価値判断をする練習にもなります。

 囲碁は心理的なゲームです。相手の打つ手を毎回読むことで相手の考え方がわかり、相手の気持ちまで察することができるようになります。相手の気持ちを察し相互に尊重しあうからこそ、「礼に始まり、礼に終わる」対局マナーが自然に身につくようになります。
 そして何より大事なのは、囲碁で子供同士や年代を越えた人と接することによって「人を思いやる気持ち」「感謝の心」が芽生えてくることです。

学校と囲碁

 囲碁においては、中学は1972年(昭和47年)から、高校では1973年(昭和48年)からクラブ活動が必修選択科目に組み入られ、日本棋院では昭和48年に学校課を設置し、クラブ活動の促進、囲碁担当教師のための講習会開催、指導教本配布など学校への普及を行うとともに、これを機に多くの学校で囲碁部が設置されました。

 1965年(昭和40年)に開始された(旧)全国高校大会を発展解消し、1977年(昭和52年)から新たに「第1回全国高校囲碁選手権大会」を開始し、また1980年(昭和55年)には「第1回少年少女囲碁大会(小中学生の大会)」が始まり、両大会とも現在まで続いています。その間、全国高等学校囲碁連盟や各県の高等学校囲碁連盟も組織化され充実してきました。

 1998年(平成10年)には、全国で初めて沖縄の真和志高校が単位制の導入とともに囲碁をクラブ活動としてではなく正課として採用、その後大阪の高校などが追従しています。
 東京都台東区では中高一貫6年制学校において、囲碁、将棋や日本の伝統文化の分野で優れた生徒を入学させる「一芸入試」の実施や、日本の伝統・文化という東京都独自の教科を都立高校向けに創設するなど囲碁を採り入れる動きが始まっています。

 大学では、一芸入試など入学者選抜方式の多様化により、囲碁で入試合格する者も出はじめ、また東京女子大学、大東文化大学、東京大学等では既に授業の一部に囲碁を採り入れています。今後は韓国のように囲碁学科設立が望まれるところです。

 現在、日本棋院では学校囲碁普及委員会を立上げ「少・中学校に囲碁を」を合言葉に全棋院をあげて青少年囲碁の普及に取組んでいます。2004年(平成16年)に小学生中学生5名の混成チーム編成による第1回文部科学大臣杯小・中学生囲碁団体戦を開催、2005年翌年には小学校、中学校各3名の学校別チーム対抗に改め「第2回文部科学大臣杯小・中学校囲碁団体戦」を開催。この大会の目的は単に囲碁の強い子どもを育てることではありません。囲碁が教育に担う役割を広く学校に浸透させ、良き囲碁指導者を育成確保し、各県さらに全国の小中学校囲碁連盟を設立してネットワーク環境の整備をすることを目的としています。

地域と囲碁

 文部科学省では、子どもたちの思いやりや行動力,協調性,前向きに生きていく力など,心の豊かさは,学校生活だけで身に付くものではなく,家族や同じ地域で暮らす多くの人々たちとふれあいながら得られるものだと考え、学校、家庭、地域が一体となり、こういう社会環境を日常的なものにするため「地域子ども教室推進事業」「子どもの居場所づくり新プラン」を平成16年より実施。
 さらに平成19年度から「放課後子どもプラン(仮)」を創設。もちろん囲碁も推進事業の対象活動となっています。

 また、既にいくつかの自治体では囲碁に注目し、子どもの人格形成、年代を超えたコミュニケーションづくり、ふれあい、町興しなどを目的として囲碁を採り入れています。神奈川県平塚市では毎年「湘南ひらつか囲碁まつり」を盛大に開催、長野県大町市では「アルプス囲碁村」を設立、広島県尾道市(旧因島市)では囲碁を「市技」に制定しています。その他にも囲碁と結びつきが強い自治体が増えています。

 子どもも大人も人間関係が難しい時代の中で、地域での年代を越えた交流は今後の大きな課題です。年代・性別・国境など一切問わない囲碁、また子どもと大人・高齢者の交流発展に寄与する囲碁の役割は今後ますます重要になるでしょう。囲碁を通じて、子どもたちの社会性が広がり、高齢者や世話人の「やりがい」や「いきがい」につながり、それが皆の「生活意欲の向上」に結びつく。これこそ囲碁が地域社会の活性化、町づくりに役立つものと確信しております。

 現在、日本棋院では文部科学省、文化庁の指導の下に学校囲碁を普及するため、地方自治体・行政と提携して囲碁事業を展開中です。
 秋田県大仙市、埼玉県北本市、幸手市、島根県益田市などでは市・市教育委員会、学校、棋院との協力体制で既に囲碁の取組みが始まっていますが、指導者不足を痛感しており、学校囲碁指導員の役割は今後益々重要になってまいります。

 全国の行政の方々には、学校教育に、また地域のコミュニケーションづくりに囲碁をぜひとも活用していただき、取組みをお願いしたく存じます。弊院におきましては、地域に密着した囲碁を目指し、また社会貢献の一助となるよう囲碁普及を展開してまいりますので、何卒お力添いのほどお願い申し上げます。